Q、リスクアセスメントはどのレベルまで想定すべきか? 
基本的には、既に発表されている火山のハザードマップについては一通り見た方がいい。なぜなら、自社が噴火の影響を受けなくても、重要なサプライチェーンが火山の近くにあって、噴火の影響を受けることは十分に考えられるからだ。噴火の期間がどれくらい続くかは分からないので、シビアなシナリオを作っておいた方がいいだろう。しかし、ハザードマップのない火山がいきなり噴火することもあり得るので、その意味でもBIAが重要になる。

それから、これは考えてもある意味仕方がないことだが、噴火には実はもっと想定を超える「破局噴火」と呼ばれる規模のものがある。北海道の支笏湖や屈斜路湖、東北の十和田湖など、いわゆる巨大カルデラをつくり出すタイプで、西では桜島、阿蘇などが、過去にこうした噴火を起こしている。このくらいの規模になると、火砕流の及ぼす被害だけでも広大となり、日本全土が火山灰に覆われることも考えられ、対策に限界はある。 

ただ、それよりももっと現実的なアイスランドの火山噴火による欧州航空路のマヒ事例などを参考に、1週間ぐらいすべての空輸が止まることを想定して対策を考えてみることは有効だ。

Q、予兆があるという意味ではパンデミックに似ているのではないか? 
パンデミックは世界的に被害が広がる点で異なる。噴火は世界的に気温を下げるということを除けば破局噴火でもない限り、被災地はかなり限定されるはずだ。富士山が噴火したとしても、関西では問題がないだろうし、日本の3分の2ぐらいは、それほどの直接的な影響は受けないだろう。だからこそ、非被災地の製品供給を止めない、経済を止めないことが重要になる。

Q、被災地での復旧なども大きな課題だ。 
有事が起きてしまうことは仕方がないことだ。もちろん被災地でやらなくてはいけないことは山ほどある。人道的な対応として要援護者の救護の問題や、水や食糧の調達は、地震以上に過酷になることは十分に考えられる。農業も数年間は壊滅的になるかもしれない。しかし、これらはBCPと一旦切り離して考える必要がある。繰り返しになるが、BCPの検討で重要なことは、まず非被災地の仕事を止めないことだ。

Q、企業によっては、ライフラインを担ったり、自治体と共に復旧にあたらねばならない企業もある。 
被災地では、人命の安全が第一になるので、社会機能維持者と、それ以外の業種では対応が異なる。社会機能維持者は社員などの安全を確保した上で、市民の生活を守るために政府や自治体の指示のもと協調した対応が求められる。 

この場合、自社単独で事業を継続することは考えにくく、同業他社などとの連携による対応を取ることになる。ただし、自治体や病院、その他多くの社会機能維持者に決定的に欠けている思想に、「受援」の考え方があるように思う。つまり、自社が無事と想定して、応援に行くこと、復旧にあたることの計画策定は熱心なのだが、自分が被災をするとの前提で、どのように応援者を受け入れるかという体制が整備されていない。 

アメリカではICS (Incident Command System:危機対応指揮システム)によって、相互支援の考え方も標準化されているが、日本はまだ普及していない。医療関係でもDMAT(災害時派遣医療チーム)では標準化されているが、一般的な病院機能の相互支援・受援の標準化はこれからである。自治体や病院なども含めて、いきなり火山などの被害想定でいろいろ心配することより、まずBIAを実施し、そして身近な地震や水害の被害に際してのBCPそのものの足元を固めることが必要と考えている。

(了)