吸血するヒトスジシマカの雌

ネッタイシマカとヒトスジシマカ(図1)という、人の住環境に生息するヤブカ属の蚊によって媒介されるデングウイルスによる感染病が、デング熱とデング出血熱です。感染症新法では4類感染症に分類され、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る義務があります。デングウイルスの感染サイクルは、蚊と人の間でのみ形成されています。近縁のウイルスに日本脳炎ウイルスがあるのですが、人と蚊の間に豚というウイルスの増幅動物が介在する日本脳炎ウイルスとは違う感染サイクルをとっています。2014年8月に東京代々木公園で感染したと考えられるデング熱の発生が突然起き、他の公園でも発生が続き、大きな騒ぎになったことが思い出されます。

 

もともと熱帯・亜熱帯地域で発生する疾病

デングウイルス感染病が見られるのは、媒介する蚊の存在する熱帯・亜熱帯地域、特に東南アジア、南アジア、中南米、カリブ海諸国ですが、アフリカ大陸、オーストラリア、中国、台湾においても発生しています(図2)。全世界では、年間約1億人がデング熱に罹患(りかん)し、約50万人がより重篤なデング出血熱にかかっていると推定されています。大変な数の人が罹患していますが、そのほとんどは小児のようです。デング出血熱罹患者の約2.5%が死亡しています。

日本でも、海外でデングウイルスに感染して国内で発病する事例が増加しつつあります。感染症法施行後の患者届出数は、1999年(1~3月を除く)9症例、2000年18症例でしたが、2010年には初めて年間200例を超えています。2014年の夏季には、160例以上の罹患者を伴う国内での流行が東京の代々木公園を中心に発生しました。

年により罹患者の発生数は変動していますが、デング熱流行地への渡航者数、ことに日本人旅行者が好んで行く地域におけるデング熱の流行状況が、罹患者発生数と密接な関係を持っているようです。