アメリカの竜巻警報システム

アメリカでは、竜巻対策としてドップラー・レーダー※1による監視・警告システムが発達しています。このシステムをもとに自治体が竜巻警報を発し、住民を避難させる体制が整備されています。

1999年5月、オクラホマ州とカンザス州の一帯を76もの竜巻が襲い、4319戸の家屋が損壊し、被災額は14億ドルにも上りました。36人もの命が奪われましたが、竜巻が襲来する20分〜120分前に警報を出し、竜巻の規模から考えれば最小の犠牲に抑えることができたと言われています。

2013年5月には、似た領域でEF5スケール※2の竜巻が2度発生していますが、被害者はさらに減少し、それぞれ0人、24人だったと報告されています。 

アメリカでは、1~8日先の竜巻の発生確率も発表しています。高精度ではないにしても、情報を確率的に事前に発表することは、災害への心構えとして有効でしょう。 

アメリカの竜巻のリードタイム(警報が出てから現象発生までの時間)は、1980年代が平均5分であったのに対し、現在では観測機能の向上により、平均13分にまで拡大しています。 

一方、日本ではゲリラ豪雨などは平均1〜2時間前に予知が可能と言われています。アメリカの竜巻に比べたら、対策を講ずる時間は比較的に長いと言っていいかもしれませんが、どのような状況なら警報を出すのか?警報を受け取る側は、どのような状況なら避難するのか、事象が発生するまでの間、あるいは事象が発生してから、お互いがどう対応しなくてはならないのか?などについて再度考え共通認識を持つ必要があるのではないでしょうか。

※1雲の中の気流を測定することが可能な特殊なレーダー
※2当時F5スケールは、現在でのEF5に匹敵(2007年に指標の見直しがあったため)

リスクコミュニケーションの必要性

警報は、人々が災害の危険を知り、災害の脅威を評価する上で役立ち、その後の自らの避難の決定に対し大きな影響を及ぼします。従って、警報を出す機関などに対する受け手側の信用と信頼度が重要となります。誤報が相次ぐと、受け手の警報への不信感にも繋がります。 

重要なのは、政府や行政は平時から、災害のリスクを管理する政策を組織的に実施し、専門機関や地域社会間でリスクコミュニケーションを取ることです。リスクコミュニケ―ションなくして、緊急時に信頼を得ることはできません。災害リスクを管理し、警報を有効的に発令するためには、双方向の情報交換や意思疎通が重要となります。  

リスクコミュニケーションにおいて、送り手と受け手の知識の差を縮める手段としては、ハザードマップも有効です。しかし、地図の内容を住民に周知しておかなければならないことに加え、政府や専門家の予測には限界があり、将来起きる災害はマップに示されているレベルを超えることもあるということも、住民には説明し、理解してもらわなければなりません。 

ハザードマップが生かされず、専門機関、行政、地元住民の間でのリスクコミュニケーション不足があった事例として、1985年に発生したコロンビアのネバド・デル・ルイス火山の噴火があります。 

この噴火では、大規模な泥流災害が発生し、死者数2万3000人、損壊家屋4500戸という被害が生じました。この火山の噴火活動は1年前から始まっていたため、事前にハザードマップが作成され、地元機関に配布、説明が行われていました。

しかし、11月13日、噴火が始まった後も、市当局は住民のパニックを恐れ、避難の指示を最後まで出さず、ラジオも「専門家によると危険はない」と報道したのです。また、火山噴火という現象について、住民の理解を欠いていたという基本的な要因もありました。

おわりに

私は、情報や警報の伝達と共に重要なのは、関係者や一般市民への知識の普及である、と感じています。現状では、提供される情報は、科学的根拠はあると言っても、一般市民には分かりにくい情報であったり、現実感を伴わない情報であったりします。このような情報をできるだけかみ砕き、個人や地域、組織が有効に利用して、防災につなげてもらうことが重要です。そのためには、情報の送り手、受け手の双方に、お互いが学び合う姿勢や、協働しようという意思が求められます。そして何より、互いが信頼できる存在になることが必要ではないでしょうか。

(了)