第1回 警報システムのあるべき姿とは?
送り手と受け手の両方に、学びあう姿勢と信頼関係を
ニュートン・コンサルティング株式会社/
コンサルタント
奥 はる奈
奥 はる奈
立命館大学国際関係学部卒業。2004年から南海地震や新潟中越地震、スマトラ島沖地震などへの防災・減災活動に従事。ISMS・BCP支援などリスク対策コンサルタントを務め、女性目線の防災対策・BCPの講師や東京都一時滞在施設開設アドバイザーに就任。2015年ロンドン大学(University College London)で危機管理の修士留学後、2016年からニュートン・コンサルティング株式会社コンサルタントに。先進のBCP、危機管理の取り組みについての知見を活かし、グローバルBCPにも対応。メキシコ留学や30カ国以上を歴訪する中で危機管理のフィールドワークを展開、リスク管理能力を磨いている。
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編集部注:「リスク対策.com」本誌2014年11月25日号(Vol.46)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです(2016年8月22日)。本稿は著者がロンドン大学に在籍していた当時に執筆したものです。
皆さん、こんにちは。ロンドン大学大学院生の奥はる奈です。
とは言っても、なぜ突然大学院生が?と疑問に思われる方もいらっしゃると思いますので、シリーズ初回では、簡単な自己紹介から始めさせてください。
前職では、リスク対策コンサルタントとして、企業の皆さまへISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)やBCP(事業継続計画)関連の支援を行っておりました。リスク対策.comでも「女性目線の防災対策・BCP」などをテーマに何度か寄稿させて頂き、セミナーの講師を務めさせてもらったり、東京都の初代「一時滞在施設の開設に係るアドバイザー」にも就任し、今年6月には、東京都の防災対策に係る専門家意見聴取会にて、舛添知事へ帰宅困難者対策の充実などについて意見を述べさせていただくなど、たくさんの貴重な機会を頂きました。
こうした経験を通じて、自治体や企業の防災対策・BCPに影響を与えることへの責任の重さをかみしめ、改めて、危機管理・BCPの本場である英国で危機管理の修士を目指すことにしました。
留学先は、長州五傑といわれる幕末の長州藩の伊藤博文や井上馨らが留学した、University College London(UCL)のInstitute for Risk and Disaster Reduction(IRDR)です。
今年7月からここで、災害対策、保険、BCP、危機管理など幅広いテーマについて学んでいます。
今回からシリーズで、大学で学んだことを私なりにかみ砕いて、お伝えしていきます。できましたら、毎回取り上げたテーマについて、みなさまと意見交換させていただきたいと考えておりますので、是非、最後までお付き合いください。
警報システムの必要性
さて、今回ご紹介するのは、「警報システム」です。警報システムとは、災害や事故を事前に予測し、情報や警報を必要とする人々や機関へ迅速に伝達するシステムのことで、最終的には避難などの行動に繋げ、被害を最小化することを目的としています。
私が英国に留学した後、日本では2つの大きな災害がありました。1つ目は、8月に起きた広島市の土砂災害、2つ目は、9月に起きた御嶽山の火山噴火です。これらの災害で被害を受けた皆さま、またそのご家族や関係者に心より哀悼の意を表します。
この2つの災害で改めて浮き彫りになった課題は、避難に関する情報や警報を「発信する側」「受ける側」との認識にギャップがある、ということでした。
自治体や関係者、住民あるいは登山客の間で、警報の意味が共有されていたのか? 警報後に取るべき行動が徹底されていたのか? 仮に警報が伝わったとして、住民や登山客は避難行動に移せたのか? これらの課題は、警報システムで検討すべき課題でもあります。ここでは海外の事例・事故もご紹介しながら、日本の課題について考えていきます。
警報システムの定義と留意点
UCLのDavid Alexander教授によると、警報とは、予知(Prediction)や予測(Forecast)に基づいて、避難や防御のための行動を取るための勧告あるいは指示のことです。
通常、この予知や予測情報の発信元となるのは、科学的・技術的に災害などの脅威を監視・評価することのできる大学や研究所、関係機関の専門家などです。そして、有効な予知や予測に基づき、政府や行政が警報を発表しなければなりません。警報の受け手は、地域社会や企業、個人であり、自己の防御のために適切に対応し、行動を取る必要があります。
政府や行政は、警報を発令するか否かを決定します。発表する場合、誰に、いつ、何を、どのように、発令するかを決定します。警報の内容は、以下の情報を含む必要があります。
・予測される被害
・予測リードタイム(災害発生までの時間)
・予測被害エリア
・予測される影響
・求められる行動
・避難や行動は勧告(勧め・促し)なのか、指示(命令に準ずる)なのか
また、警報の内容は、以下の項目を満たしている必要があります。
・公的かつ信頼性のある発信源であること
・明確で矛盾がなく、正確であること
・繰り返され、確実なものであること
例えば、アメリカでは警報の内容を、警報(Warning)、その下位情報として注意報(Watch)の2つのレベルに分けています。日本の気象庁では、3つの項目(注意報、警報、特別警報)に分け、注意や警戒を呼びかけています。
警報を出した後も、災害などの脅威の変化について最新情報を収集、評価し、状況に変化があった場合は引き続き警報を発信します。災害の危険がなくなった場合は、警報解除の発表を行います。
さらに、警報の内容は、受け手の状況や社会的環境、個人的要因などによって解釈が異なります。そのため、警報に対する公共の反応や行動の結果は収集され、次の警報のために参考にされなければなりません。具体的には下記のようなステージを踏む必要があります。
・発表した警報内容のまとめ/報告
・レビュー/検証/評価
・警報システムや警報内容等の改善
・警報システムのテスト(必要があれば)
一例として、東日本大震災では当初、過小評価された津波の高さで警報が発表されました。しかし、時間経過に伴い「大規模な」や「きわめて高い」などの表現が加えられています。
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