災害から命を守れ ~市民・従業員のためのファーストレスポンダー教育~
【第3章】 チームの安全を守るICS (前編)
株式会社日本防災デザイン /
CTO、元在日米陸軍消防本部統合消防次長
熊丸 由布治
熊丸 由布治
1980年在日米陸軍消防署に入隊、2006年日本人初の在日米陸軍消防本部統合消防次長に就任する。3・11では米軍が展開した「トモダチ作戦」で後方支援業務を担当。現在は、日本防災デザインCTOとして、企業の危機管理コンサルや、新しい形の研修訓練の企画・実施を行う一方、「消防団の教育訓練等に関する検討会」委員、原子力賠償支援機構復興分科会専門委員、「大規模イベント開催時の危機管理等における消防機関のあり方に関する研究会」検討会委員、福島県救急・災害対応医療機器ビジネスモデル検討会委員、原子力総合防災訓練外部評価員、国際医療福祉大学大学院非常勤講師、(一社)ふくしま総合災害対応訓練機構プログラム運営開発委員長等の役職を歴任。著作:「311以後の日本の危機管理を問う」、オクラホマ州立大学国際消防訓練協会出版部発行「消防業務エッセンシャルズ第6改訂版」監訳、「危険物・テロ災害初動対応ガイドブック」等。
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■チームビルディング
さて、いよいよこの章から最終章まで、一気に一般市民または組織の従業員がファーストレスポンダー※1として公設のプロのレスポンダーが現場へ到着するまでの数時間から数日間を繋ぎ、災害現場において真の自助・共助を実践するための具体的なノウハウの部分に入っていく。
※1 事故や災害が発生した時に初動対応に当たる公設の警察・消防・自衛隊・海保の職員を総称している呼び名。本シリーズでは“市民救助隊”Community First Responder(仮称)、または“民間事業者緊急対応チーム”Corporate Emergency Response Team (仮称)の意味を含む
我が国日本では災害対策基本法で各市町村管轄の下、自治体ごとに自主防災組織が作られている(米国のCERT:Community Emergency Response Teamはこれにヒントを得て組織されたと言われている)。また消防法のもと、全国の市町村に消防団が組織されていたり、一定規模以上の事業所には自衛消防組織がある。石油コンビナート等災害防止法や原子力災害特別措置法により、危険物質に対応する特別な自衛消防組織なども置かれている。このような自らの力による防災体制をあらかじめ備えていることは大事なことである。
しかし、その実態をクローズアップしてみると、様々な落とし穴があることに気付く。例えば自助~共助~公助への流れを円滑に行うための標準化された戦うルールがないこと、個々の対応レベルを示す基準がないこと、等々。それらの問題点を浮き彫りにしていくのはまた別の機会にするとして、本章では、いかにしてチームとして災害と闘っていけばよいのかを具体的に示していく。
その中で、市民救助隊(Community First Responder、以下CFR)、または民間事業者緊急対応チーム(Corporate Emergency Response Team、以下CERT)を組織として機動させるために必須なのが「インシデント・コマンド・システム」(以下ICSと呼ぶ)である。ICSは本誌でも何度も取り上げられている題材であり、読者の方にも馴染みのある言葉だとは思うが、本章ではこのICSを市民レベル・企業レベルの現場目線で解説していく。
余談ではあるが、東京電力は2013年より正式にICSを組織として採用し、訓練を始め、2016年度からは体系的カリキュラム導入に向けての本格的な取り組みが始まっている。
【現場マネジメントの3大原則】
1.チームの安全
CFR、CERTに限らず、あらゆる災害対応の組織において最も重要なのがチームの安全が第一ということである。そのため、CFR、CERTメンバーは最低でも必ずバディー(2人1組)で作業にあたらなければならないという前提は勿論のこと、対応能力に見合った”引き際”をしっかりと理解し実践することが最も重要な課題である。
2.明確なリーダーシップと組織構築
現場指揮官(チームリーダー)は、災害現場での活動方針をチームの能力と訓練のレベルに基づいて決定しなければならない。チームメンバー一人ひとりの役割と責任を明確にし、機能的な組織にすることが求められる。したがってチームは、指揮命令系統(Chain of Command)を確立し、全てのメンバーの役割及び機能を共通の認識とする。スポーツで例えるとするなら、現場指揮官が監督で、チームメンバーが選手という事だ。監督は選手の能力に基づいて、そのポジションとフォーメーションを定め、試合に臨むという事である。 また、メンバーは一人の人間からのみ指示を受け、報告をする(指揮の一元性:Unity of Command)。指示又は報告しなければならない連絡系統が複数存在するということは、緊急時においては、単なる無駄でしかなく、時間的・経済的観点から鑑みても省略しなければならない非効率的なプロセスである。
3.災害対応活動の有効性向上
多くの危険が存在する災害現場において、災害対応活動の効率を高めるためには、チームとしての能力を向上させ、繰り返し訓練を行わなくてはならない。チームリーダーはメンバーそれぞれのスキルと特性を掌握し、適材適所に人員を配置し機能的なチームとして災害対応活動が行えるように指揮を執る。このようなことからもお分かり頂けると思うが、本番でチームが力を発揮できるかは、日常的な訓練(練習)にすべてかかっている。
以上、現場マネジメントの3大原則をサラッと記したが、第1章の「災害準備編」でも述べたように、一人でも多くの人の命を救い災害による被害を最小限度に抑えるためには、国民一人ひとりが個人のプロフィシェンシーレベル(対応能力)を高めて、公と融合し標準化されたルールのもと、臨機応変かつ効果的に一つのチームとして戦っていかなければならない。
そのためには、まず我々一人ひとりが良きチームの選手として、本番の試合でファインプレーができるように、普段から日常的に練習を重ねて個人のスキルを伸ばしていくしかないのである。ルールブックを見ているだけでは野球やラグビーは上手くならない。練習、練習、また練習である。そして、他の選手たちと調和し、監督の総指揮の下、チームとしての完成度を高めなければならないのだ。災害時においてよく起こりがちなことは、バットを振れない人が、いきなりバッターボックスに入りホームランを打とうと試み失敗するケースである。
1985年に発生したメキシコ大地震の時には、近隣住民を助けようとした一般市民の方々に多くの犠牲者が出てしまった。そのような悲劇を起こさないために、本シリーズでは、全体を通して個人練習のための基礎的知識とチームで戦うための実践的なノウハウを読者の皆さんに提供するのが目的であるということを、ここで改めて述べさせていただきたい。
【個人用保護具】
(PPE:Personal Protective Equipment)
さて、話が少し横道に逸れたが本題のICSに入る前に、ここで“チームの安全”について再確認したい。上記に述べたとおり救助者の安全が何よりの優先順位である。よって個人の装備や保護具について無視することはできない。PPE(個人用保護具:Personal Protective Equipment)の準備も無く災害現場で作業することは無謀な自殺行為に等しいと心得るべきである。
下記が必要最低限の個人用保護具である。
(1)ヘルメット
(2)ゴーグル
(3)マスクN95
(4)ノンラテックスグラブ
(5)皮手袋あるいは軍手
(6)安全靴
(7)耳栓
(8)救助者を示す蛍光ベストあるいはビブス
(9)長袖シャツ・長ズボン
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