第1回 社会的価値観の変化、企業行動の変化とリスク管理
非財務要素と企業価値の関係を意識した経営が求められる
企業危機管理士/
RMアドバイザリー社代表
後藤 茂之
後藤 茂之
大阪大学経済学部卒業後、コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所・客員研究員(1996~1997)を経て、中央大学大学院総合政策研究科博士課程修了、博士(総合政策)。中央大学経済研究所客員研究員、日本リスクマネジメント学会・評議員、ソーシャルリスクマネジメント学会・理事。38年間大手損害保険会社及び保険持株会社にて、企画部門、リスク管理部門、国際業務部門等に従事。経済価値ベースの企業価値管理、ERMの構築・強化などの業務に携わった後、現在まで9年間大手監査法人にてリスクアドバイザリーサービスに携わる。また、この間大学、大学院の客員教授、非常勤講師、セミナー、講演などを行う。主な著書に、『ESGリスク管理』中央経済社(2023年)、『気候変動時代の「経営管理」と「開示」』中央経済社(2022年共同編著)、 『リスク社会の企業倫理』中央経済社(2021年) などがある。
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企業を取り巻く環境の変化と企業活動、リスクの変化
今、社会の価値観が大きく変わろうとしている。われわれが直面している地球レベルの社会・環境課題については、2015年9月に国連で採択された持続可能な開発目標(Social Development Goals: SDGs)という形で共有されることとなった。ここで掲げられた諸問題は、これまでの経済的発展の陰で無視あるいは軽視されてきた諸要素により引き起こされた結果と考えられる。
このような社会の変化の中で、企業活動と社会・環境問題との関係が再検討されている。企業は社会的存在である。実際問題これまでも社会の変化は企業活動に直接・間接に影響を及ぼしてきたし、逆に企業の新たなイノベーションは社会構造を変革してきた。このように、社会の変化と企業活動は相互に密接な関係性を保って相互に発展してきた。
企業は社会に対して新たな価値創造を生み出す存在といえる。しかし将来に対して価値を創造する企業活動には不確実性が伴う。企業が新たな価値創造を目指し、事業計画を立て、そこに利用しうる最大の資源を投入したとしても成功が保証されるわけではない。なぜならば、具体的な将来シナリオを誰も正確に予測することはできないからである。そのため、企業活動に伴う不確実性を可能な限り減少させる目的でリスク管理が発達した。そして、企業経営にとってリスク管理は不可欠な機能として組み込まれている。
科学技術が社会の発展に大きく寄与してきたのは事実である。経済社会はこれまで様々な産業革命を経て発展してきた。「革命」とは新しいテクノロジーや新しい世界の認識が引き金となって経済システムや社会構造が根底から覆るような突然で急激な変化を意味する。第1次産業革命では、蒸気機関の発明により、機織り工業、蒸気船、鉄道の建設などが始まり工業化が起こった。第2次産業革命では、電気や化学肥料の発明、石油および鉄鋼業の技術革新があり、自動車や飛行機が発明された。第3次産業革命は1950年代から始まり、真空管からトランジスタ、さらに大規模集積回路からメインフレームコンピュータ、パーソナルコンピュータの開発へと続き、スマートフォンやインターネット、データベースを利用する情報通信革命、デジタル革命を引き起こした。今われわれは第4次産業革命の中にいる。コンピュータ技術と情報通信技術の発展を土台として、自動運転、3Dプリンター、先進ロボット工学、新素材、ナノテクノロジー、再生可能エネルギー、IoT、遠隔監視、ブロックチェーンなどが生み出され、生物学の領域では、遺伝子配列解析、ゲノム編集などの技術が経済・社会システム全体に影響を及ぼそうとしている。
ただ、科学技術の発展は、経済・社会を発展させる原動力となるだけではなく新たなリスクも生み出してきた。第1次産業革命の時代を振り返ってみたい。19世紀にジェームズ・ワットが発明した蒸気機関は、その後改良が施され、様々な領域で利用され、人々に革新的変化をもたらし経済を大きく変革していった。しかし、19世紀の英国における蒸気機関による事後件数および死亡者数は増大したこと事実も忘れてはなるまい。
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