グーグルの自動運転車(出典:Flickr)

■夢のような自動車だ!

よく晴れた休日の朝、朝食を終えたあなたは、自宅の車庫に待機している自分で充電し終えたばかりの「自動運転車」に話しかける。「今日は絶好のドライブ日和だなあ。僕ら家族をどこかリフレッシュできる場所に連れていってくれないか?」。すると自動運転車は答える。「東名を通って箱根方面はいかがでしょう? 今日なら富士山もよく見えますよ…」。

だいぶSFチックにイメージを膨らませ過ぎた感はありますが、人間のドライバーが運転する必要はなく、カーナビのように行き先を設定すれば、あとは車が勝手に最適なルートを選んで、最も安全な方法で目的地へ運んでくれるという意味では、冒頭の描写は当たらずも遠からずではないでしょうか。

自動運転車のリスクについて考える前に、まずはその利点についていくつかまとめておきましょう。

(1)安定走行と交通ルールが維持されるため、渋滞や事故が起こりにくい
(2)人間が運転する時のようなヒューマンエラー(不注意、速度の出しすぎなど)がない
(3)カーシェアリングの融通性や駐車場確保の柔軟性が高まる(車の方から人の待機場所に来てくれる)
(4)人間の視覚に頼る道路標識や信号、その他の路上のサインを大幅に減らすことができる
(5)人間は乗車するだけなので免許証の有無、年齢、飲酒者かどうかの制限がない

自動運転車について解説したサイトを覗くと、他にもいろいろな利点があるようですが、筆者としては上に述べた5点が自動運転車の主なメリットととらえています。

■事故はAI車開発途上の「必然」か?

ところで、画期的な新技術や高度な技術が私たちの社会に導入され、社会システムの一つとして円滑に機能するまでには、相応の「失敗」という洗礼を受けざるを得ません。とくにそれが人を運ぶ移動手段である場合には、導入期における直接的、間接的な事故、そしてそれに伴うケガ人や犠牲者が発生するリスクがあります。もっともこの種のリスクは、これまでの自動車や旅客機、旅客船などの導入の歴史を見ても当てはまることなので、AI自動車に限ったことではありませんが。

今年3月、米国アリゾナ州の公道でAI試験車(運転席には人間も同乗)による初の死亡事故が起きました。49歳の女性が自転車を押して横断歩道以外の道路を渡ろうとしていたとき、時速65kmで走行してきた自動運転車にひかれたものです。この事故を受けて開発メーカーのUberは、事故原因を究明するまでロードテストは中止すると発表しました。

■参考記事(The Guardian)
https://www.theguardian.com/technology/2018/mar/29/uber-settles-with-family-of-woman-killed-by-self-driving-car

これはこれで賢明な判断なのでしょうが、実はここに早くも最初のリスクが潜んでいます。もしこのような事故が何度か起これば、さまざまな利害関係者が疑問を持ち、製品化にブレーキがかかるかもしれないからです。例えば自動運転車開発メーカーの株主や投資家たちは「本当に市場は自動運転車を安全な乗り物として受け入れてくれるのか?」と弱気のマインドになってしまいます。将来の潜在顧客である消費者にとっても、「せっかく購入した自動運転車が人をひいたりしたら、だれが責任を取るのだろう? もし車の所有者が責任を問われるなら、オレは絶対に買わないぞ」と判断するかもしれません。