2018/09/13
AIブームとリスクのあれこれ
■AI自動車はどこまで自律システムなのか?
ところで、自動運転車は英語では「Autonomous Car」とか「Self-Driving Vehicle」などと呼ばれています。「Autonomous」は「自律的(自主的)」という意味ですから、まさに自律システムを目標として研究開発されている車なのでしょう。しかし、ここで一つ少し気になることがあります。
その「自律」とはどこまでの自律を指しているのでしょうか? 例えば気象条件。最近は好天でも雨天でも、時折竜巻かと思うような突風や強風が吹き荒れる時があります。豪雨も頻繁に起こります。真冬の凍結したスリップしやすい路面、段差やでこぼこの路面も心配の種でしょう。
また、突発的な事故や慢性的な渋滞によるノロノロ運転の度合い。北海道などではブリザードやホワイトアウトの中を、自動運転車はどうやって走り抜けるのでしょうか。こうした数えきれないほどの条件、しかも時々刻々と変化する状況の中で、自動運転車も同じように時々刻々と自分で判断し、その都度走行の仕方を変えてくれるのでしょうか。人間なら、ハンドルを握った手とアクセル、ブレーキの微妙な運転さばきでクリアできるのですが。
ちなみにグーグルの自動運転車開発部門のWaymoは、まさにこうしたさまざまな環境に耐えるための実験を行っているといいます。 なにしろ優れた自己学習能力を持つAIのことですから、ここに書いたことぐらいは私たち一般人の杞憂に過ぎないのかもしれません。しかし…、依然として疑問は残ります。
■安全な自動運転車の時代となるための条件は?
自動運転車の魅力に釈然としないと思うのは次のような理由によります。まず、先行する車や対向車、追い越し車などが自動運転車ではなく人間が運転する車である場合の偶発的な危険性。人間のドライバーに性善説を当てはめることなどできません。乗用車やバス、トラック、バイクなど、いろいろなタイプの車両が制限速度を超えるスピードで、あるいはのろのろと自由気ままに街中を走り回っているからです。
ウィンカーもつけずに右折や左折する車、携帯電話をかけながら片手運転する車、飲酒運転する車、気分がむしゃくしゃしてやたらスピードを出したいドライバーもいるでしょう。このような実際の道路事情と折り合いをつけながら、自動運転車はあなたを乗せて安全に走行できるでしょうか。
そして最も気になることは、自分と対峙している相手やモノに対して「価値」や「社会性」を認識できないAIが、危機が迫った時にどのように"人間らしく"判断してくれるのかという疑問です。例えば、前方の車が急ブレーキをかけた。自動運転車のAIは自分の車が急ブレーキをかけても衝突は避けられないと判断し、歩道の方へハンドルを切る決定をした。しかし歩道には通学途中の児童たちが歩いていた…。もし人間のドライバーなら、自分よりも子どもたちの命を守る決定を優先したかもしれません。
このように考えると、AIの判断と決定を人間の価値観や倫理的判断よりも優先するのか、それを法的に認めるのか、というやっかいな問題と向き合っていかなくてはなりません。電気自動車が普及するように、人間の運転する車社会に無人の自動車が混在しながら徐々に浸透し、入れ替わっていくというシナリオを描くのは、限りなくリスキーなものに思えてくるのです。私たちの命をどこまでこの機械に託せるかは、自動運転車そのものの性能の追究はもとより、より広い視野で、かつ抜本的に交通法規や道路の運用の仕組みを変えていく必要があると言えるのではないでしょうか。
(了)
AIブームとリスクのあれこれの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/03/05
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/04
-
-
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
-
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
-
-
2度の大震災を乗り越えて生まれた防災文化
「ダンロップ」ブランドでタイヤ製造を手がける住友ゴム工業の本社と神戸工場は、兵庫県南部地震で経験のない揺れに襲われた。勤務中だった150人の従業員は全員無事に避難できたが、神戸工場が閉鎖に追い込まれる壊滅的な被害を受けた。30年の節目にあたる今年1月23日、同社は5年ぶりに阪神・淡路大震災の関連社内イベントを開催。次世代に経験と教訓を伝えた。
2025/02/19
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方