第8回:AIを使って犯罪をどこまで未然に防げるか?
米国だけでなく日本でも取り組み
BCP策定/気候リスク管理アドバイザー、 文筆家
昆 正和
昆 正和
企業のBCP策定/気候リスク対応と対策に関するアドバイス、講演・執筆活動に従事。日本リスクコミュニケーション協会理事。著書に『今のままでは命と会社を守れない! あなたが作る等身大のBCP 』(日刊工業新聞社)、『リーダーのためのレジリエンス11の鉄則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『山のリスクセンスを磨く本 遭難の最大の原因はアナタ自身 (ヤマケイ新書)』(山と渓谷社)など全14冊。趣味は登山と読書。・[筆者のnote] https://note.com/b76rmxiicg/・[連絡先] https://ssl.form-mailer.jp/fms/a74afc5f726983 (フォームメーラー)
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■マイノリティ・リポートがAIで現実のものに?
2002年に公開されたトム・クルーズ主演のSF映画「マイノリティ・リポート」には、犯罪を未然に防ぐために選ばれたプリコグと呼ばれる3人の予知能力者が登場します。3人はプールのような水面上に横になり、ひたすら犯行時のイメージが現れるのを待つという設定です。当時観たときは非現実的でいかにもSFチックな映画という印象でしたが、今日、まさにAIが予知能力者の代わりを果たせそうな勢いであることに、筆者は驚かざるを得ません。
AIで未然に犯罪を防止するとはどういうことでしょうか。これは、法に触れるような行為にはある種のパターンがあって、そうしたデータを可能な限りたくさん蓄積することによって事前に怪しい行動を察知できるという考え方に基づいています。たとえ膨大かつ有用なデータが集まったとしても、昔のコンピュータでは処理しきれませんでしたが、今日ではAIによる機械学習の登場でそれが可能になったというわけです。
犯罪の多い米国などでは、この種のAIの開発や導入に積極的であることは言うまでもありません。警察による犯罪捜査や分析、救急車や消防車の出動はもとより、傷害事件の被害者などは治療や入院で医療負担が増えるし、重大犯罪の場合は財産価値が減少したり、政府や企業などはセキュリティをできる限り強化しないと枕を高くして寝ることはできないでしょう。トータルな目で見れば、政府も企業も犯罪のために膨大なコスト負担を強いられているのです。ある専門家は米国のGDPのおよそ2%を犯罪関係のコストが占めていると述べているほどです。
AIや機械学習に関するマーケティング調査を行っている「TechEmergence」に掲載された記事の一部を参考にしてみましょう。
https://www.techemergence.com/ai-crime-prevention-5-current-applications/
■銃の発砲現場をすばやく特定
今や歯止めが利かなくなったのではと思えるほど、米国内では銃を使った犯罪が多発しています。この原稿を書いている最中にも、米東部ペンシルベニア州ピッツバーグ市のユダヤ教礼拝所で白人の男が銃を発砲し、礼拝に来ていた信者や警察官を含め、多くの人が死傷するという悲惨な事件が起こりました。こうした状況を背景に、銃犯罪抑止のためのAIの開発や導入に拍車がかかっているという事実は、アメリカの社会ならではのことかもしれません。
例えば、ShotSpotterという会社が開発したAIソフトウェアは、高い精度で銃の発砲を検知できるもので、すでに14件の発砲事件を特定したという実績があります。あるケースでは、警察は近くの公園で発砲されたと誤認しましたが、実際は2ブロック離れた場所で起こったことをこのソフトウェアが特定したのです。このケースでは警察が犯行現場に駆けつけ、そこに残されていた手がかりを発見し、まだ周辺にいた目撃者たちに聞き込みができるほどの時間的な余裕があったというから驚きです(同社はこの迅速な対応で2名の容疑者が逮捕されたと伝えています)。
ShotSpotter社では、いずれニューヨークやシカゴ、サンディエゴなど90都市にこのAIソフトウェアを展開する予定であるとのこと。同社のクライアントの大半は米国内ですが、新たに南アフリカのケープタウンが顧客に登録されたといいます。しかし日本としては、なるべくこの種のAIのお世話にならないことを祈るばかりです。
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