顧客による迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」に対し、来店拒否などの対策を公表する小売りやサービス関連企業が増えている。少子化やインバウンド(訪日客)回復で人手不足が深刻化する中、働く側はSNSによる嫌がらせを含め心理的な負担が増しており、安心して働ける環境づくりは急務。大手運輸幹部は「『お客さまは神様』の時代は終わった。顧客がいても従業員がいなければ廃業だ」と危機感を募らせる。
 コンビニエンスストア大手のローソンは9日、業界で初めてカスハラ対応の基本方針を公表した。身体的な攻撃だけでなく、「威圧的な言動」「誹謗(ひぼう)中傷」などを対象行為に挙げ、「今後の入店を断る場合がある」と明記した。
 同社は6月には、店舗従業員の名札にイニシャルや仮名の記載を認めた。従業員がストーカー被害に遭ったり、名前を呼ばれることに恐怖心を覚えたりする事案があり、制度を見直した。
 UAゼンセンが6月に発表した小売り・サービス業の組合員を対象とした調査によると、直近2年以内にカスハラを受けた割合は46.8%と、半数近くが被害を訴えた。「最も印象に残る」迷惑行為については「暴言」が最多。「ぶっ殺すぞ」「女のくせに」と怒鳴られた事例も報告された。また、「SNS・インターネット上での中傷」との回答が2020年の前回調査から増えた。
 手厚い接客を売りにする百貨店も動きだした。高島屋は7月にカスハラと判断した場合は「(顧客)対応を打ち切り、来店を断る場合がある」などとする基本方針を公表。悪質な場合は警察や弁護士に連絡する。広報担当者は「社内外に姿勢を明示することは、従業員が安心できる職場環境につながる」と強調した。外食大手のすかいらーくホールディングスも近く対策を示す予定だ。
 クレームも貴重な意見と捉える考え方が強い小売り・サービス業だが、パーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は「人手不足が限界に達している」ため、カスハラへの厳格対応が広がっていると分析。「カスハラで辞められるダメージは昔よりも大きく、経営危機に直結する問題になってきた」と指摘した。 
〔写真説明〕カスタマーハラスメント対策でイニシャル表記などが可能になったローソンの名札(同社提供)

(ニュース提供元:時事通信社)