災害などの非常時においても支払業務を続けなければならないわけとは(イメージ:写真AC)

BCPで規定した計画と現実との間のギャップを、多くの企業に共通の「あるある」として紹介し、食い違いの原因と対処を考える本連載。第2章として「BCPの実効性、事業継続マネジメント、発生コスト」のなかに潜む食い違いを論じています。前回は非常時における請求書の発行業務を取り上げましたが、今回は支払い業務について考えます。

第2章
BCPの実効性、事業継続マネジメント、発生コストの「あるある」

(5)BCPの実効性

②事業継続戦略
・「入り」はあっても「出」のないBCP(多数)

「これで全部ですか?」

担当者「重要業務ですね。全部です」

「ほんとうにこれで全部ですか?」

担当者「はい」

「給料が振り込まれなかったら困りませんか?」

担当者「あ」

「お金を払ってくれない会社にサプライヤーが納品してくれますか?」

担当者「あ」

「納税ができなければ、最悪会社のお金や財産が差し押さえられて工場も止まりますよ」

担当者「あ」

担当者様が全社のBCPを統括する立場だったので、すぐに「あ」と気付いていただけました。しかし、事業部門が主体となって策定したBCPの担当者様と会話すると、こんなやりとりに変わります。

「給料が振り込まれなかったら困りませんか?」

担当者「困りますね。ローンやクレジットカードの引き落としがありますので。でもそういうのは人事と経理がうまくやってくれるんじゃないんですかね」

「お金を払ってくれない会社にサプライヤーが納品してくれますか?」

担当者「うち(事業部門)の調達は、発注して納品されたものを検収するところまでなので、検収実績が経理に渡ってからのことはわかりません」

「納税ができなければ、最悪会社のお金や財産が差し押さえられて工場も止まりますよ」

担当者「それは経理ですね」

お読みいただいた通り、支払いに対する意識が希薄な、「入り」はあっても「出」のないBCPです。

こうしたケースは、事業部門が独自にBCPを策定した場合(ものづくりの観点が強くお金にあまり関心がない)か、全社的にBCPを策定したものの、事業部門と管理部門が別々にBCPを策定し、相互の関連を全社視点で統括できていない場合に見受けられます。

図:「ビジネス」の視点でBCPが策定されていない

BCPのBはビジネスのB、ビジネスとはお金をもらうこと。と、わかりやすく書いてきましたが、ビジネスは「お金をもらうこと」と「お金を払うこと」の両方があって成立するものです。

ビジネスは収入と支出の両方があって成立する(イメージ:写真AC)

あなたの会社がサプライヤーを集め、あなたの会社のビジネスが社会にとっていかに重要であるかを説明してBCP策定を勧めたら、サプライヤーは、納品したらきちんとお金がもらえて自社の事業が継続できると思い、あなたの会社への納品を重要業務の一つに定めて素直にBCPを策定してくれるでしょう。

サプライヤーは、原材料を仕入れ、設備をメンテナンスし、従業員を雇い、もしかしたら代替戦略を採用して通常より多いコストをかけてあなたの会社に納品してくれます。しかし、もしあなたの会社が支払いできなかった場合には、サプライヤーは当面の金策に走りまわらざるを得ないのはもちろん、あなたの会社との取引を見直すことになるでしょう。

サプライヤーが離反したサプライチェーンは不安定になるばかりか、もし代替できないサプライヤーが離反してしまえば、あなたの会社のビジネスそのものが立ち行かなくなってしまいます。

サプライヤーとともにサプライチェーンのBCP強化を行う際には、まずBCPの重要業務の一つに「支払」を加えたうえで、「災害に見舞われたとしてもきちんと支払います」と伝えることで、より確実な成果に結びついていくのではないでしょうか。

支払いはBCPの重要業務の一つ(イメージ:写真AC)

もうあたり前にお気づきのことと思いますが、従業員もまったく同じです。仕事をしたらきちんとお金がもらえるはずだと素直に思い込んでいるか、もし気になっていたとしても「災害に見舞われても給料はきちんと払ってくれるんですよね」とは、従業員の立場からはなんとなく聞きにくいでしょう。

ところが、実は会社は支払いに無頓着だと気づいて不安を感じてしまえば、日常的にもモチベーションを高く保つことはできないでしょうし、まして災害に見舞われた場合には会社に駆けつける気など起こらず、自らの金策に走りまわることになるでしょう。事業継続どころではありません。従業員には「災害に見舞われたとしてもきちんと給与は支払う」と伝えることでBCPの実効性も高まっていくでしょう。