BCPをやっていくら儲かるの?
第17回(最終回):発生するコストをどう説明するか

荻原 信一
長野県松本市出身。大学卒業後、1991年から大手IT企業に勤務。システム開発チームリーダーとして活動し、2005年にコンサルタント部門に異動。製造業、アパレル、卸業、給食、エンジニアリング、不動産、官公庁などのコンサルティングを手がける。2020年に独立。BCAO認定事業継続主任管理士、ITコーディネータ。
2025/01/22
ざんねんなBCPあるある―原因と対処
荻原 信一
長野県松本市出身。大学卒業後、1991年から大手IT企業に勤務。システム開発チームリーダーとして活動し、2005年にコンサルタント部門に異動。製造業、アパレル、卸業、給食、エンジニアリング、不動産、官公庁などのコンサルティングを手がける。2020年に独立。BCAO認定事業継続主任管理士、ITコーディネータ。
BCPの計画と現実とのギャップを多くの企業に共通の「あるある」として紹介し、食い違いの原因と対処を考えてきた本連載も、いよいよ最終回となりました。第1回からの流れを、下記に整理します。
長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。最後に、BCP・BCMのコストに関する「あるある」を取り上げ、企業経営において日頃から事業継続に取り組む意味を考えてみたいと思います。
・コストは投資の考え方で。BCMで企業価値の向上を目指す
「BCPをやっていくら儲かるの?」。情報セキュリティーに関することにはなぜかホイホイとお金が出てくる(そしてリスクが変わればまたすぐに新しいお金が出てくる)のに、事業継続に関わる費用の話になったとたん、こんな言葉を聞くことになった方も多いのではないでしょうか。
情報セキュリティーに関わる費用も、事業継続に関わる費用も、はっきり言ってしまえばどちらもコストです。しかし、払わなければならない「税金」と、払った方がいいとは思うけれど払わなくても罰を受けない「寄付」の違いくらいの温度差を感じたことはないでしょうか。
私は、かれこれ15年ほど前に事業継続に関わるコンサルティングを始めて、すぐにこの状況に遭遇しました。事業継続計画書という書物はほしいものの、具体的な課題解決やリスク対策に関わる費用については「将来的な課題」とか、ここで使うこと自体が意味不明な「時期尚早」のような、都合のいい言葉をつけて先送りしてしまう(なかったことにしてしまう)のです。
BCPは、現在できているリスク対策の結果を前提として業務が継続できるように立案しますから、新たなリスク対策を必要としないと言えば、確かにその通りかもしれません。また、新しいリスク対策や事業継続を行えるようにするための対策には費用が発生しますから、発生する費用と効果を見極めて「投資しない」と判断することももちろんあり得ます。
しかし、脊椎反射的なスピードで(要するにあまり考えもせずに)費用に対して拒否反応を示すのは、経営者として自社の存続への無関心であり無責任なのではないかと、喉元まで出かかったところを我慢して、こんな提言をしてきました。
事業継続に関わるコストを、従来の「いざというときのためだけのコスト」という考え方とは一線を画し、業務改善、さらには企業価値向上を目指す取り組みとしてとらえてみたらどうでしょうか、と。その取り組みのアプローチを少し具体的に説明します。
これについては、事業継続と事前のリスク対策に主眼を置き
➊代替業務拠点や代替業務手順の整備、教育、演習
➋従業員の多能工化、ジョブローテーション
➌データセンターやクラウド環境の利用など情報システムのリスク対策
➍リモートデスクトップツールなどによる従業員の業務継続対策
などを行うことが考えられます。
これらのすべてを同時に実施するのは容易ではなく、コスト感も高いのでしょう。そのため「日々の利用のなかで効果を発揮し、いざというときにはより効力を発揮するもの」を優先的に選定し、日常利用で償却していく取り組みが有効であると考えます。
最近の例では、働き方改善のために導入したリモートデスクトップツールが、新型コロナウイルスの感染拡大にともなって従業員の行動が制限された際には在宅勤務ツールとして効力を発揮したことがわかりやすいかもしれません。
ざんねんなBCPあるある―原因と対処の他の記事
おすすめ記事
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。今回、石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
2度の大震災を乗り越えて生まれた防災文化
「ダンロップ」ブランドでタイヤ製造を手がける住友ゴム工業の本社と神戸工場は、兵庫県南部地震で経験のない揺れに襲われた。勤務中だった150人の従業員は全員無事に避難できたが、神戸工場が閉鎖に追い込まれる壊滅的な被害を受けた。30年の節目にあたる今年1月23日、同社は5年ぶりに阪神・淡路大震災の関連社内イベントを開催。次世代に経験と教訓を伝えた。
2025/02/19
阪神・淡路大震災30年「いま」に寄り添う <西宮市>
西宮震災記念碑公園では、犠牲者追悼之碑を前に手を合わせる人たちが続いていた。ときおり吹き付ける風と小雨の合間に青空が顔をのぞかせる寒空であっても、名前の刻まれた銘板を訪ねる人は、途切れることはなかった。
2025/02/19
阪神・淡路大震災30年語り継ぐ あの日
阪神・淡路大震災で、神戸市に次ぐ甚大な被害が発生した西宮市。1146人が亡くなり、6386人が負傷。6万棟以上の家屋が倒壊した。現在、兵庫県消防設備保守協会で事務局次長を務める長畑武司氏は、西宮市消防局に務め北夙川消防分署で小隊長として消火活動や救助活動に奔走したひとり。当時の経験と自衛消防組織に求めるものを聞いた。
2025/02/19
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/02/18
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方