BCPに取り組むことはいざというときのためだけではない(イメージ:写真AC)

BCPの計画と現実とのギャップを多くの企業に共通の「あるある」として紹介し、食い違いの原因と対処を考えてきた本連載も、いよいよ最終回となりました。第1回からの流れを、下記に整理します。

第1章 リソース制約と事業継続戦略の検討・見直しの「あるある」

(0)はじめに

・まだ地震用のBCPしかつくっていないんです
・まわりは壊滅しているのに、当社の被害はなぜか軽微で全員無事
(1)建物、施設・設備の制約
・時空を超えるBCPその1(大手・IT系・事業部門)
(2)従業員(人的リソース)の制約
・時空を超えるBCPその2(大手・IT系・事業部門)
(3)情報(情報システム)の制約、IT-BCP
・ビジネス不在のIT-BCP(関西地区の大手および中堅・主に製造業・情報部門)
(4)外部リソースの制約
・ウチは親方〇〇だから(関西大手・非公開・情報部門)
・中小規模のパートナーで構成されるサプライチェーン(大手・給食・経営部門)

第2章 BCPの実効性、事業継続マネジメント、発生コストの「あるある」

(5)BCPの実効性

1)初動・災害対策本部
・みんな羽田に大集合(中堅・製造業・総務部門)
・こってりでマシマシ「ぜんぶ乗せ」な災害対策本部(大手・製造業・総務部門)
2)事業継続戦略
・いのちだいじに(中堅・金融業・経営部門)
・請求書を出さないとお金がもらえない(大手・製造業・情報部門)
・「入り」はあっても「出」のないBCP(多数)
・事業継続は経営マター
3)訓練のあり方
・訓練は盛大な朗読会(中京地区大手・製造業・事業部門)
(6)事業継続マネジメント
・BC「M」の重要性
・「ISOの二の舞だ」(中堅・製造業・経営)
・第三者認証制度を運用のエンジンに
(7)人材育成・確保
・優秀な人材をBC推進担当者としてアサインさせたい
(8)発生するコストをどう説明するか
・コストは投資の考え方で

長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。最後に、BCP・BCMのコストに関する「あるある」を取り上げ、企業経営において日頃から事業継続に取り組む意味を考えてみたいと思います。

(8)発生するコストをどう説明するか

・コストは投資の考え方で。BCMで企業価値の向上を目指す

「BCPをやっていくら儲かるの?」。情報セキュリティーに関することにはなぜかホイホイとお金が出てくる(そしてリスクが変わればまたすぐに新しいお金が出てくる)のに、事業継続に関わる費用の話になったとたん、こんな言葉を聞くことになった方も多いのではないでしょうか。

情報セキュリティーに関わる費用も、事業継続に関わる費用も、はっきり言ってしまえばどちらもコストです。しかし、払わなければならない「税金」と、払った方がいいとは思うけれど払わなくても罰を受けない「寄付」の違いくらいの温度差を感じたことはないでしょうか。

BCP葉策定するも課題解決や事前対策にかかる費用は先延ばしのケースが多い(イメージ:写真AC)

私は、かれこれ15年ほど前に事業継続に関わるコンサルティングを始めて、すぐにこの状況に遭遇しました。事業継続計画書という書物はほしいものの、具体的な課題解決やリスク対策に関わる費用については「将来的な課題」とか、ここで使うこと自体が意味不明な「時期尚早」のような、都合のいい言葉をつけて先送りしてしまう(なかったことにしてしまう)のです。

BCPは、現在できているリスク対策の結果を前提として業務が継続できるように立案しますから、新たなリスク対策を必要としないと言えば、確かにその通りかもしれません。また、新しいリスク対策や事業継続を行えるようにするための対策には費用が発生しますから、発生する費用と効果を見極めて「投資しない」と判断することももちろんあり得ます。

しかし、脊椎反射的なスピードで(要するにあまり考えもせずに)費用に対して拒否反応を示すのは、経営者として自社の存続への無関心であり無責任なのではないかと、喉元まで出かかったところを我慢して、こんな提言をしてきました。

事業継続に関わるコストを、従来の「いざというときのためだけのコスト」という考え方とは一線を画し、業務改善、さらには企業価値向上を目指す取り組みとしてとらえてみたらどうでしょうか、と。その取り組みのアプローチを少し具体的に説明します。

1.日々日常の道具として力を発揮するうえ、いざというときにも効力を発揮する投資を平時の利用で平準化して償却する

これについては、事業継続と事前のリスク対策に主眼を置き
➊代替業務拠点や代替業務手順の整備、教育、演習
➋従業員の多能工化、ジョブローテーション
➌データセンターやクラウド環境の利用など情報システムのリスク対策
➍リモートデスクトップツールなどによる従業員の業務継続対策

などを行うことが考えられます。

平時にも非常時にも力を発揮する対策を優先化(イメージ:写真AC)

これらのすべてを同時に実施するのは容易ではなく、コスト感も高いのでしょう。そのため「日々の利用のなかで効果を発揮し、いざというときにはより効力を発揮するもの」を優先的に選定し、日常利用で償却していく取り組みが有効であると考えます。

最近の例では、働き方改善のために導入したリモートデスクトップツールが、新型コロナウイルスの感染拡大にともなって従業員の行動が制限された際には在宅勤務ツールとして効力を発揮したことがわかりやすいかもしれません。