企業にとって、リスク管理(ERM)の一義的な目的は、企業価値の変動を適切に管理し、倒産を防ぎ、継続的活動を担保することにある。企業の経済価値ベースの貸借対照表(Balance Sheet)の状況は常に変化している。例えば、資産サイドでは、工場や建物が自然災害によって被害にあったり、保有金融資産の市場価格が下落する。また、負債サイドでは、調達する原材料などの価格が高騰するなどの可能性が常に存在する。

企業価値を低下させる要因には、企業のコントロールが及ばない要素も多々ある。ただ、損害を軽減させられる可能性はある。例えば、企業にとってコントロール外にある典型的な要因として、自然災害が考えられる。自然災害と損害発生の構造を考えてみたい。最終的な損害が確定するまでには3つの要素が関与していると言われる。これは、図表1で示した、ハザード、脆弱性、曝露の3つである。

画像を拡大 図表1. リスクの3要素

このように要素分解すると、企業にとって将来の損害を低減させる方策が見えてくる。例えば、台風や地震の発生の可能性(ハザードの状況の確認)が高い地域での活動を回避すること、またそのような地域にある財産に対しては、防災対策の強化を検討すること(脆弱性を改善すること)、あるいは、巨大な設備の建設を避けること(暴露の低下)などが考えられる。

ただ、現実の企業の意思決定は、リスク面のみを考慮して、対応を決定しているわけではない。ビジネス機会を含め、両面から総合的に事業に関する判断を行う。リスクをとってでも機会の拡大に関する意思決定をした場合は、リスクは可能な限り低減させておきたいので、リスクの3要素の視点から効果的な対応を検討することとなる。