写真:CFoto/アフロ

■今回のニュース:
小林製薬「紅麹」被害拡大 異例の回収命令、迫られた行政

小林製薬が製造した「紅麹(こうじ)」原料のサプリメントによる健康被害の問題を巡り、大阪市が27日、対象商品の廃棄に向け回収を命じる行政処分を出した。2人の死亡例が明らかになり、100人以上に入院が拡大。被害の全容が見通せず、影響の拡大を防ぐため行政が対応を迫られた。

企業がすでに自主回収を表明したなかで、行政が早期の回収を命じるのは異例だ。消費者が購入済みの問題のサプリを摂取しないよう注意を促す狙いがある。亀本保健主幹は「商品が手元にある場合、絶対に食べないようにしてください」と呼びかけた。
(日経、2024年3月28日)

■リスクの視点:
経営陣の苦渋

製品に本来入っていない成分による健康被害は、医薬品であれ健康食品であれ、経営陣に苦渋の決断を迫るものである。本来入っていないはずの成分であるから、「被害を受けた消費者が、何か別の事由で健康を害した」可能性も否定できない。

しかしながら、健康被害が複数寄せられると決断の遅れが命取りになる。健康被害が2件だと赤信号なのか? 3件以上ないと偶然と判断すべきなのか? この見極めは極めて難しい。しかしながらである。健康被害が10件を超えると「あっという間に」100件に爆発的に増加することになりかねない。

小林製薬に最初の腎疾患の入院の症例報告が医師から入ったのは1月15日で、2月27日までに6人の入院事例を確認した。自主回収が3月22日にずれ込んだことについて、渡辺淳執行役員は「調査にかける人員が限られ、製品が原因で症状が起こったと特定できなかった」と説明している(産経新聞、2024年3月28日)。

この間、事実確認などの事由で1月15日から2月6日にトップに報告が行ったとされる間のずれはやむを得ないとしても、自主回収を公表したのはそこから1カ月半も遅れたことは事態を決定的に悪化させた。

雪印乳業の失敗事例

2000年に起きた雪印乳業の「黄色ブドウ球菌の毒素に汚染された乳製品による集団食中毒の事例」は、危機管理担当者・経営者にとって貴重な教訓である。この事案では乳製品を加工販売した雪印の大阪工場の担当者が消費者から複数寄せられた「子供が下痢をした」などの問い合わせに対して「子供さんにはよくあること」と取り合わず、結果1万3000人に及ぶ被害拡大をもたらしてしまった。これも問い合わせが数件の内に、原料を加工した北海道の大樹工場に確認をすれば「冷凍貯蔵タンクが停電した」事実がすぐわかり、「販売中止・回収」へのアクションが起こせたはずである。