台風に備えるのは単に風水害対策だけでは済まない
第2回 都市化と気候変動の風水害対策
鈴木 英夫
慶應義塾大学経済学部卒業。民族系石油会社で、法務部門、ロンドン支店長代行、本社財務課長など(東京・ロンドン)を務め、その後、外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務め、危機管理広報、リスクマネジメントを担当(大阪)。現在は、GRC研究所代表、リスクマネジメント・コンサルタント(兵庫)。リスクマネジメント協会研究員。
2022/08/26
ニュースから探るリスクマネジメントのABC
鈴木 英夫
慶應義塾大学経済学部卒業。民族系石油会社で、法務部門、ロンドン支店長代行、本社財務課長など(東京・ロンドン)を務め、その後、外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務め、危機管理広報、リスクマネジメントを担当(大阪)。現在は、GRC研究所代表、リスクマネジメント・コンサルタント(兵庫)。リスクマネジメント協会研究員。
「線状降水帯」は、発達した積乱雲が次々と連なって大雨をもたらす現象で、伊豆大島では、
▽午後9時10分までの1時間におよそ110ミリの猛烈な雨が降ったとみられるほか
▽午後10時10分までの1時間にも81.5ミリの猛烈な雨を観測した。
気象庁は、命に危険が及ぶ土砂災害や洪水が発生する危険性が急激に高まっているとして、厳重に警戒するとともに、安全を確保するよう呼びかけている。(NHK NewsWeb配信:2022年8月14日)
地球温暖化が関係していると指摘されているが、昨今の台風は大型化し、また通常の温帯低気圧がもたらす雨もしばしば「線状降水帯」などを引き起こし大きな被害をもたらしている。被害は人命や建物・機械設備・製品などに対する直接損害にとどまらない。実際、2019年の台風19号の時には、物流各社が、配送の取り止め・ドライバーへ自宅待機を指示・ハザードマップを参照し車両を移動させるなど、さまざまな対策を実施したが、それでも河川の氾濫で浸水被害が大きかった地域では、輸配送企業の配送拠点や車両の水没、停電による業務遅延や一時的に業務が行えず、その他の地域でも通常の配送ルートが利用できず迂回が必要になるなど、物流は大きな打撃を受けた。
一般に製造業では部材の一つでも欠けると生産を継続することができなくなる。水害などによる「道路の閉鎖」や「交通機関の運休」や「物流の停滞」などの影響で原材料や部品を調達できなくなることに注意しなければならない。ちなみに、ジャストインタイム方式で行う生産現場では「部材の在庫を持たない」ので「ネジ1本欠けてもラインが休止」に追い込まれることが指摘されている。
例えば、ルネサスエレクトロニクスは本年7月6日、台風4号による局地的雷雨の影響で、川尻工場(熊本市)の稼働が5日から停止した。全面復旧は11日ごろになると発表している。(時事通信社配信:2022年07月06日)
水災害の影響は海沿い・川沿いの地域に留まらない。低気圧の巨大化により高潮も以前では考えられない規模になることもある。最近、東京都では「高潮警報を内陸の目黒区と新宿区も対象にする」ことを発表している。
工場も事務所も住宅も水害に見舞われることがある。水災の「ハザードマップ」は各自治体で準備され、ネットで公開されている。事業所などの「立地がイザという場合に何センチ・あるいは何メートルの水没地域にあるのか?」を確認しておくことは有用である。例えば、上流に豪雨があり川下の流域に立地している事業所の場合「従業員をどちらの方角に退避させるのが安全か」がわかるし、想定水没水位が1メートルなら鉄筋コンクリート造の建物であれば「2階に退避することが風雨の中で帰宅・避難するよりも安全な場合も」あることに留意したい。
その他、工場や倉庫での平素から行っておくことのできるリスクマネジメントは:
1) 土のう袋を用意する
2) 吸水性の高い掃除道具を用意する
3) 止水パネルを設置する
4) 床に物を置かないように徹底する
5) 排水設備の掃除
6) ガラスの補強
などがある。
ニュースから探るリスクマネジメントのABCの他の記事
おすすめ記事
能登の二重被災が語る日本の災害脆弱性
2024 年、能登半島は二つの大きな災害に見舞われました。この多重被災から見えてくる脆弱性は、国全体の問題が能登という地域で集約的に顕在化したもの。能登の姿は明日の日本の姿にほかなりません。近い将来必ず起きる大規模災害への教訓として、能登で何が起きたのかを、金沢大学准教授の青木賢人氏に聞きました。
2024/12/22
製品供給は継続もたった1つの部品が再開を左右危機に備えたリソースの見直し
2022年3月、素材メーカーのADEKAの福島・相馬工場が震度6強の福島県沖地震で製品の生産が停止した。2009年からBCMに取り組んできた同工場にとって、東日本大震災以来の被害。復旧までの期間を左右したのは、たった1つの部品だ。BCPによる備えで製品の供給は滞りなく続けられたが、新たな課題も明らかになった。
2024/12/20
企業には社会的不正を発生させる素地がある
2024年も残すところわずか10日。産業界に最大の衝撃を与えたのはトヨタの認証不正だろう。グループ会社のダイハツや日野自動車での不正発覚に続き、後を追うかたちとなった。明治大学商学部専任講師の會澤綾子氏によれば企業不正には3つの特徴があり、その一つである社会的不正が注目されているという。會澤氏に、なぜ企業不正は止まないのかを聞いた。
2024/12/20
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/12/17
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方