■今回のニュース:
コインロッカー販売の子会社元社員が21億円横領

貨幣処理機大手のG社は3月14日、コインロッカー販売の子会社の元社員が2009年~今年2月、売上金など約21億円を横領し、うち約17億円を競馬の馬券購入に使っていたと発表した。今月11日付で元社員を懲戒解雇し、刑事告訴を検討している。社内調査委員会の報告書によると、元社員は経理を担当。売上金や保険料などを保管する金庫から現金を着服したり、会社の預金を自身の口座へ振り込んだりし、発覚を免れるため残高証明書や帳簿を改ざんしていた。元社員は横領を認めている。(ニュース配信元:共同通信社、2022年3月14日)

 

■リスクの視点:
不正を起こせるのはベテラン経理マン

そもそも会社の経理で不正が起きるのは、ベテラン経理マンである。新人は、そんな方法を気づきもしないし、実行するだけの知識もない。ベテランでなければそんな機会も得られないし、やり方もわからず、そもそも不正どころか正確な経理処理さえもおぼつかないかもしれないのである。

同様の事件でしばしば耳にするのが、周りの人たちのコメントで「普段はまじめに仕事していました」とか「上司からも信頼されていました」といった評価である。従って、このような経理不正が起きるにはいくつかの条件がある。

1) 当該業務に精通している
2) 上司からも信頼されている
3) 全てのことが任されて、チェックがなされていない

以上の3要素である。

どんな仕事でもそれを遂行する上で、1)は必要であり、業務に精通していなければ仕事にならない。精通しているからこそ2)上司からも信頼されるのである。であるからして、ここまでは望ましいことであれ、何らの不都合はない。

問題は3)である。全てが任されているのが有効なのは、交渉相手との「瞬時の決断で契約の成否が決まる」といった、営業その他の交渉などの場面である。権限のない担当者との交渉は退屈を超えて、無駄と思われても仕方がない。ところが…である。経理、あるいはさらに職務が分担している会社の場合には「財務」担当の組織においては「全てが任されている」のは仕組みとして既に背任的であろう。

■リスクマネジメントとしてのポイント:
二重チェックや複数部門の関与など

では、経理・財務部門でのリスクマネジメントにはどんな「仕組み」や「心がけ」が必要なのであろうか?

一般に会社であれ自治体であれ、組織がその現預金などの財産について行うことは、二重チェック・承認・複数部署の関与・監査などのモニタリングなど複層的なリスクマネジメントである。例えば、窓口で現金を受け取ったら、必ずその現金と入金伝票を併せて「上席職員のチェック」を受ける。これが二重チェックである。そして、当該取引を終えた時に「上司の承認」を受ける。さらに毎日、終業時に現金を数えて帳簿の残高と一致しているかを確認する。

取引先への支払いについては、通常「担当部門が請求書などの証票を付けて経理部門に伝票を回す」など「複数部門で分担」して業務を行う相互牽制が行われている。さらにITシステムでは、取引先の銀行預金口座は、「取引先マスター」といって別の決済経路でしか変更が出来ないように設計されている。

監査などの「事後のモニタリング」では、資産の記帳や棚卸では、費目により、実在性・網羅性・権利と義務の帰属・評価の妥当性・期間配分の適正性・表示の妥当性などがチェックされる。現金や預金であれば「実在性」が特にチェックされるのである。