請求書を送ったり催促をしたりしても支払いがなされない場合は間々ある(イメージ:写真AC)

はじめに

日々の事業活動において事業者は、物を販売したり、サービスを提供したりするなどして、相手方から売買代金やサービス利用料金などを支払ってもらう権利(債権)を得ています。そして、支払期限までに相手方から任意に代金等の支払がなされているのが通常でしょう。

しかしながら、場合によっては請求書を送ったり、電話・メールで催促したりなどしても、なかなか支払がなされないこともあろうかと思います。そういった場合、最終的には民事訴訟を提起して裁判所の審判を求め、勝訴後、強制執行を行っていくことも必要になる場合が出てきます。

この民事訴訟においては、裁判所に審判を求める権利・法律関係について、原告の側で主張・立証することが求められます(本連載「民事通常訴訟編」参照)。

そうすると、特に債権額が少額な場合などには、コストを勘案して、請求・回収を諦めてしまうという選択をしてしまうことも、間々あり得るのだと思います。

そのようなかたちで債権回収を諦めてしまう前に、債権回収の手段として有力な候補の一つとなるといえるのが、今回取り上げる支払督促です。

支払督促とは

支払督促とは、「金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」(民事訴訟法(以下法名省略)382条本文)につき、債権者の申立てにより、裁判所書記官が債務者にその履行を命じる処分です。

当事者(原告・被告)の主張・立証活動を踏まえて裁判所が判断する民事訴訟とは異なり、債権者の申立て(≒主張)のみで、裁判所書記官が債務者に対し、支払督促を発します。この手続では債権者による立証は不要ですし、債務者を審尋しないで発するとされているため(386条1項)、債務者に反論する機会が与えられずに支払督促が発せられることになります。このため、債権者も債務者も裁判所に出向く必要はありません。

「支払督促の効力は、債務者に送達された時に生」じ(388条2項)、「債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に督促異議の申立てをしないときは、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促に手続の費用額を付記して仮執行の宣言をしなければならない」(391条1項本文)とされています。この仮執行宣言が付された支払督促により、強制執行が可能になります(民事執行法22条4号)。

このように、支払督促は、民事訴訟では求められているプロセスが大幅に省略されており、簡易・迅速に強制執行を可能にするものであるといえます。