上場企業に迫られるIT統制の高い壁
第25回:J-SOX改訂の影響と対応策

林田 朋之
北海道大学大学院修了後、富士通を経て、米シスコシステムズ入社。独立コンサルタントとして企業の IT、情報セキュリティー、危機管理、自然災害、新型インフルエンザ等の BCPコンサルティング業務に携わる。現在はプリンシプル BCP 研究所所長として企業のコンサルティング業務や講演活動を展開。著書に「マルチメディアATMの展望」(日経BP社)など。
2023/09/06
企業を変えるBCP
林田 朋之
北海道大学大学院修了後、富士通を経て、米シスコシステムズ入社。独立コンサルタントとして企業の IT、情報セキュリティー、危機管理、自然災害、新型インフルエンザ等の BCPコンサルティング業務に携わる。現在はプリンシプル BCP 研究所所長として企業のコンサルティング業務や講演活動を展開。著書に「マルチメディアATMの展望」(日経BP社)など。
上場企業における財務報告の信頼性の確保を目的とした内部統制報告制度、いわゆるJ-SOXが15年ぶりに改訂され、2024年度から適用されます。急速な環境変化への対応が求められる上場企業の状況を背景に、いくつかの改訂が行われていますが、ポイントとされるのが情報セキュリティの確保やDX化を含む「IT統制」です。
今までのIT統制では、下記の課題が指摘されていました。
a. IT全社レベル統制
・全社(経営陣、情シス、利用者)でのIT管理の理解不足により、「統制」レベルに達していない
b. IT全般統制
・全社(経営陣、情報セキュリティ担当部門、利用者)での情報セキュリティへの理解不足により、脆弱な統制状況
c. IT業務処理統制
・機械的、形骸的な監査(内部監査を含む)により、リスクが見落とされている
これらの課題に踏み込んだIT統制に対する監査内容の改訂ポイントは、① IT/DXの委託業務、主にクラウド利用環境におけるリスクチェックと、② サイバーセキュリティリスクの高まりを踏まえた情報セキュリティの確保という二つに重点が置かれています。
しかし、本質的なIT管理(IT統制)という点においては、その十分性が求められることになり、IT統制が不十分である、または適合性・有効性に問題がある企業は、IT管理や情報セキュリティを根底から考え直す必要に迫られることになります。
まず、クラウドに対するリスク対応を見てみましょう。そもそもクラウドサービスが始まった2000年代初めにおいて、クラウドに対するリスクマネジメントとして、次のようなリスク要素が挙げられていました。
上記項目すべてに現状環境におけるリスクチェックが求められるわけですが、特に最後のパトリオット法(米国等)では、データセンターを運用している国の政府が合法的にクラウド内のデータを閲覧したり、差し押さえたりすることができるというもので、過去これを営業的な差別化として、日本のクラウド業者が海外のクラウド業者を排除するために使っていたことがありました。
アメリカでは、2015年に法律として失効していましたが、2018年にCLOUD ACT (Clarifying Lawful Overseas Use of Data Act)として、米政府が米国内に本拠地を持つクラウド業者に対して、米国外に保存されているデータであってもデータの開示要求をすることができる法律が可決され、再びパトリオット法が復活した状況になっています。
世界的に影響を与えるような機密情報を取り扱う企業やノーベル賞クラスの研究を行っている企業などにとっては、米国のクラウドを利用してデータのやり取りを行っていること自体、大きなリスクとしてとらえることができます。
ただ、現実的には本法律の運用において現地法に優先するものではないことなど、不安を払拭できる要素も多分にあり、取り扱うデータの内容や機密性というポイントを押さえて利用すれば問題は少ないというのが現時点での評価のようです。
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