(イメージ:写真AC)

海外で安全対策を推進する上で、海外の特定国・地域を訪問する前に、現地の治安情勢を中心として、犯罪発生率が特に高い地区等について事前に把握し、当該地区には近寄らないようにすることなどが、極めて重要なのは言うまでもありません。また、訪問する国や地域における特有の犯罪傾向を事前に理解し、個別にその対策を講じることも有益です。しかし、渡航者自身の性別、経歴、役職等によって、犯罪に巻き込まれる脅威度合が異なり得ると考えたことはあるでしょうか。例えば、海外に滞在する同じ日本人であっても、現地の大学院で10年間勉強している自費留学生、語学が得意ではない女子大生グループの卒業旅行、日本食レストランでワーキングホリデービザで働く若者、日本の本社から現地法人に派遣された中堅駐在員、現地人と結婚している現地採用者、現地新設工場を視察のために出張している本社取締役は、もちろん訪問する国や地域にもよりますが、犯罪に巻き込まれる脅威度合が異なる状況が多くあります。

この点について、海外で勤務する従業員等の安全確保に従事する担当者および渡航者本人は、意識が比較的薄いのではないでしょうか。しかし最近、海外への駐在や出張等に関して、「女性が渡航する際の注意事項はありますか」という質問を、弊社にも多くいただいています。このような場合、訪問国の個別の事情をお伝えしつつ、宗教、慣習、文化等の違いにより、安全対策上、女性の方が男性よりも犯罪の対象となる可能性が高い国があるのも事実であり、特に性犯罪に巻き込まれないよう男性よりも強く意識するようアドバイスさせていただいています。このように、訪問する地域の治安情勢の把握に加えて、渡航者の「プロファイル」(上記の場合は性別)を意識することにより、重層的な対策を講じることができ、海外ではより安全が確保できると言えます。

「プロファイル」って何?

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では、このプロファイルの意味するところは、一体何でしょうか。広辞苑によれば、「プロファイル」(注:「プロフィール」)は、「横顔。側画像。簡単な人物紹介。」と記載されており、一般に、経歴のような履歴書に記載するような事項がイメージされますが、安全対策の文脈では、正確な意味合いではないと思料されます1。他方、英英辞典2で「プロファイル」を検索すると、「description of somebody/something」という説明があり、この人物の描写という説明がより適切であり、やや意訳ではありますが、渡航者自身の「属性」と考えればイメージしやすいと思います。そしてポイントは、海外ではこの属性に応じて、危機に遭遇する可能性が変動し得る点です。例えば、業務上、治安の危険レベルが高い地域に赴く際、当該地域の人種・宗教・言語能力を有する現地職員と、本社から一時訪問する日本人出張者とでは、トラブルに巻き込まれる可能性が違うでしょう。また、海外で勤務する同じ組織内の日本人社員同士でも、現地法人社長と入社数年目の若手社員とでは、誘拐被害に遭遇する可能性が異なるでしょう。さらに、赴任地で過去に留学経験があり言葉もできる日本人社員と土地勘がなく言葉ができない日本人社員とでは、万一、現地で危機に遭遇した場合の対応能力にも差が出るでしょう。

プロファイルの中身

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具体的に考慮すべきプロファイルの中身とは、何なのでしょうか。一般に日本人の場合、基本的には国籍、出身地、性別、人種、年齢、宗教に大きく変わりがないのでイメージしにくいかもしれませんが、次のようなものがあげられます。

•国籍、出身地、性別、人種、年齢、宗教、家族構成、性的指向・自認(LGBTQ+)
•学歴、職歴(経験や役職含む)、職業、特殊言語能力、渡航目的等

前者については、基本的には生まれながらにして有しており、長期的に変わりようがない普遍的な事実であることが多い一方で、後者については、本人や第三者等の意思が一定程度関与することが多く、成長過程において自ら身に着けた能力・技能で、職業上求められる業務や責任等と言えるでしょう。

おそらく、一般に多くの組織において、海外拠点に人事配置をする際には、これらのプロファイルを多分に考慮するのではないでしょうか。例えば、「新規採用したA若手社員は運動部出身で体力もあり、少々生活環境が悪い国でも問題ないだろう」、「B中堅社員の配偶者はムスリムで本人もアラビア語が堪能なのでイスラム教の国の赴任が適任だろう」、「C技術者は大学で薬学を学んでおり、複数回の海外勤務経験があるので、海外の新薬開発事業の責任者に抜擢しよう」などです。