元日本コカ・コーラ広報担当副社長が語る
“広報担当者の心構え”

■危機は管理できない

元日本コカ・コーラ広報担当副社長山根一城氏

毎日、新聞の社会面をにぎわす不祥事。そしてその対応のお粗末さ。対岸の火事のようにとらえて見ていたものがいきなり我が身に起こる。予告なしにいきなりあなた自身にたった今襲ってくるのが危機です。

危機管理という言葉がありますが、私は、危機は管理できないものだと考えています。管理できないから危機なのです。危機はお行儀よく危機管理担当者の下に事件を運んではくれません。危機について考えたこともない一般社員も含めて、誰にでも、社内でも、社外でもどこであっても、ある日突然、襲いかかってくるのです。表面に出て社会に報道される事件や不祥事は氷山の一角に過ぎません。表に出てしまった事件にあわてて対応するのが『危機対応』で、危機発生後は、できるだけダメージを少なくし、早期に修復することが求められます。危機への対応そのものが企業の評価に大きくつながります。

企業の皆さんは、社会からの非難をあびるような自社内の事故や不祥事については、公にしたいと思われないでしょう。それは企業にとっては恥部だからです。何か起きたらどうすればいいのか担当者の皆さんは常に悩んでいらっしゃるのが現実だと思います。

一方、未然に事故が起きにくい状況作りや、起きたときの対応をあらかじめ準備訓練しておけば、それらのほとんどが表に出ずに未然防止ができます。これが本当の『危機管理』です。広報対応についてもまったく同じことです。メディア対応をする必要があるなら、記者の前に立つ人の長所・短所まで理解して、例えば長くしゃべりすぎる癖がある人なら15秒以内にYESかNOを的確に答えられるようにしておくなど、会社に決して悪影響を与えないように、その人をコントロールしなくてはいけません。社会的に注目される立場の人で酒癖が悪いことが分かっていたら、人前では絶対に酒を飲ませない。
これがプロの広報担当者です。

私は、日本コカ・コーラの危機管理責任者だった頃、全国に先駆けBCP(事業継続計画)の構築を行いました。地震だけではありません。事業の継続をおびやかすあらゆるリスクに対処できるようにしておくのがBCPです。管理者や社員はもちろん、ガードマンや契約社員まで教育を徹底しました。また、現役当時は常に2つの携帯電話を持ち、24時間いつでも連絡が受けられるようにしていたものです。現場からの情報がいつでも収集できる体制こそ危機対応の基本です。

経営者の仕事の三分の一は危機管理に費やすべきといわれています。『平時』の周到な準備と訓練が『有事』のときに企業を救います。現役時代に培った危機管理者としての経験を、今の担当者に伝えていくことこそが私の使命だと考えています。