2011/01/25
誌面情報 vol23
危機発生時の広報戦略【PART2】
【PART 2】 メディア対応の基本
逃げるな、隠すな、嘘をつくな
■すべてのステークホルダーへ影響する
危機管理広報において特に重要とされるのがマスコミなどへのメディア対応だ。テレビや新聞、インターネットなどによる報道は、消費者はもちろん取引先、株主、そして従業員まで、あらゆるステークホルダーに影響を及ぼす。危機の被害を最小限に抑えられるかどうかは、メディア対応にかかっているといっても過言ではない。
元・安田生命保険(現明治安田生命保険)の取締役広報部長で、現在、NPO法人広報駆け込み寺の代表を務める三隅説夫氏は「そもそも広報と広告の違いすら分かっていない会社、経営者が多い」と指摘する。広告宣伝がうまくできていても、危機発生時の広報対応を間違えば、一気にブランドは崩れ去る。三隅氏は「広報とは危機管理そのもの」と説く。
■事前対策のポイント
組織内に危機管理委員会を設けたり、危機管理マニュアルを整備するなど、リスクマネジメントに取り組む企業は多い。しかし、三隅氏は実際に危機が発生した後の体制については意外にしっかりと考えられていないと警笛を鳴らす。
最も重要なのがコミュニケーション。社外とのコミュニケーションはもちろんだが、そもそも、社内において悪い情報を一早くトップに伝えるためのコミュニケーションが不足しているとする。「担当者や担当部署は、怒られることを怖がってミスを隠し込む。結果、社内ならミスとして処理されるような問題が、隠しておくことで内部告発などによってマスコミなど外部に伝わり、不祥事になってしまう」。日ごろから組織中で風通しをよくし、十分にコミュニケーションを図っておくことが何より重要ということだ。
もう1つ大切なのが危機発生時に意思決定をする司令塔の存在。特に、マスコミなど外部への対応については普段からマスコミと付き合いのある広報部長がすべてを取り仕切るべきだとする。そのためには広報部長を役員に選任するなど権限と責任を持たせるべきだと三隅氏は語る。「経営者の分身として、社内の統制が取れるような人材でなければ務まらない」。
三隅氏自身、旧安田生命の広報に17年間身を置き、その間、取締役広報部長も歴任し、このことを強く実感したという。「役員会に出席して情報が直接、把握できるということは、危機管理広報において極めて大きな意味を持つ。役員にしないまでも広報部長を役員会に陪席させるような仕組みが必要」。
■危機発生時の対応
NPO法人広報駆け込み寺が一般消費者1000人を対象に行った企業不祥事に関する調査がある(2007年12月調べ)。
それによると、企業の不祥事が増えていると感じている人に、「どのように不祥事が発覚したと思うか」発覚の原因を聞いたところ、96%の人が内部告発を挙げた。また、不祥事を起こした企業の対応については、「隠す、説明責任を果たさない、嘘をつく」などに憤りを感じている回答が多かった。
しかし一方で、不祥事を起こした企業とのかかわり方については、「不祥事を起こした企業の商品や株を買わない」との回答は少なく、今後「企業等の対応を見る」との回答が過半数を占めた。
三隅氏は「メディア対応のポイントは、逃げるな、隠すな、嘘をつくな」の3原則と言いきる。いずれも、NPO法人広報駆け込み寺が行った調査において、不祥事を起こした企業として最も許すことができないとされる行動だ。
「やってしまったら謝るしかない。“逃げないで謝りなさい、隠し事はしてはいけません、嘘を言ってはいけません”と親が子どもを教育するのと同じこと。隠したり嘘をついても、内部告発となって、必ず後に発覚する」。
逆に、悪い情報でもどんどん出して、しっかりとした改善策を伝えれば、ピンチをチャンスに変えることもできると三隅氏は語る。「アンケートでも、企業の対応を見てかかわり方を決めると言ってくれている。きちっと対応すれば、またいらっしゃいということ」
■記者会見の発表内容
一般に、不祥事などの謝罪会見で伝えるべき基本項目とされているのが以下の5点。
1、謝罪
2、現状説明
3、原因
4、改善策
5、処分・責任
1は、原因が詳しく分かっていない段階でも、まずお騒がせしたことについてお詫びをする。2は、現状どのような状況になっているかステークホルダー全般に対する影響についての説明。3は、なぜこうなったかという原因について。そして4が今後の被害拡大を防止するための対策。5は、経営者や担当者の責任や処分の方針について。
しかし、三隅氏は、これらをしっかり伝えたとしても、非難されるケースは多々ありえると指摘する。以下、三隅氏が挙げる「記者会見の悪い例」をまとめた。
■訓練の重要性
三隅氏は、正しいメディア対応ができるようにするためには日々の教育・研修が重要と強調する。「反射神経と同じようにすぐに反応できるように何回も教育・研修をやって体に覚えさせなくてはいけない。
ゴルフと同じで、理屈が分かっても絶対にうまくいかない」
経営者から末端の従業員に至るまで、実は日々の業務の中で電話を受け付けたり、来訪者と会うなど広報の仕事をしている。「広報は広く報いると書く。社会に広く報いて貢献するには、従業員1人1人が、広報の意識を持って、取り組むことが重要」と三隅氏は話している。
おすすめ記事
-
パリ2024のテロ対策期間中の計画を阻止した点では成功
2024年最大のイベントだったパリオリンピック。ロシアのウクライナ侵略や激化する中東情勢など、世界的に不安定な時期での開催だった。パリ大会のテロ対策は成功だったのか、危機管理が専門で日本大学危機管理学部教授である福田充氏とともにパリオリンピックを振り返った。
2024/11/29
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/26
-
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方