「超高齢化社会」への分岐点となる2025年問題に加え、IT分野では「2025年の崖」問題がクローズアップされています。2025年の崖とは何か、今回から数回に渡り解説をしていきます。
■事例:ITが直面する重大な課題
中小企業の総務部長であるAさんは、先日、ある会合で「2025年の崖」という言葉を聞きました。2025年問題(日本の人口の年齢別比率が劇的に変化して超高齢化社会となることで社会構造が大きく変わり、雇用、医療、など、さまざまな分野に影響を与えることが予想されること。企業においては特に「事業承継」と「人材不足」に大きな課題があるといわれている)は以前からよく耳にしていましたが、「2025年の崖」というワードは実は初めて耳にしました。
調べてみると、2025年の崖とは、企業に導入されているITシステムの老朽化や、運用・保守ができる人材の減少などが論点となっている「IT版の2025年問題」と言ってもいいものでした。
確かに、Aさんの会社でもITシステムは古くから使っているものであり、かつ他部署との連携が図られておらず、全社横断でのデータの利活用は全くと言っていいほどなされていません。システムを構築した当時の責任者であった人も既に退職してしまっていて、構築当初の設計思想を理解している人が社内にいなくなっています。また、それらのシステムのメンテナンスはITベンダーに丸投げで、メンテナンスの方法などはブラックボックス化しています。さらには、部署ごとにスクラッチ開発やカスタマイズを多用していて、それぞれの部署ごとの「オリジナルノウハウ」も多数存在している状況です。
Aさんは、「このままでは、我が社こそまさに2025年の崖に直面する」と感じましたが、現在のシステムは日常何の問題も無く使えている状態であり、誰も困っていない現実があります。Aさんは「我が社は2025年の崖に直面している。早急に社内のシステムを大胆に刷新すべきだ!」と声をあげようにも、それには大きなコストと多くの時間が必要であり、着手しにくいのが現実です。しかし、それでは問題の先送りになってしまうため「何とかしなければ…」と思っていますが、一体、何から始めていいやら…と悩んでいます。
■解説:共通課題は「人材不足」
今年に入り、各メディアで「2025年問題」が取り上げられることが多くなっています。事例にも記しましたが、2025年問題とは、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、日本が超高齢化社会になることに附随して起こる問題を指します。2025年問題には様々なものがありますが、多くの企業のとっての共通の課題は「人材不足」になるかと思います。
人材不足についてはいろいろな対策を検討すべきですが、人材不足の解決策を一言で言うなら、「IT化可能な分野の徹底したIT化と、人が介在しなければ完結しない業務プロセスへの人的資本の集中」しかないのではないかと筆者は思っています。
「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年9月に発表した『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』で記された言葉です。「日本企業がDXの取り組みを十分に行わなかった場合、2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失が発生し、国際競争力を失う」といったシナリオが話題になりました。主な原因は「企業のDXが推進されず、老朽化したシステム(レガシーシステム)を使い続けること」であり、これによって、下記のような事態が起きるとされています。
① データを活用しきれず、DXを実現できないため、市場の変化に対応して、ビジネスモデルを柔軟・迅速に変更することができずデジタル競争の敗者になる
② システムの維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上(技術的負債)になり、業務基盤そのものの維持・継承が困難になる
③ 保守運用の担い手不在で、サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失等のリスクが高まる
その克服のために、「まず経営陣がレガシーシステムを使い続けること自体が危機的状況であるという認識を持ち、DXの推進をしっかりとコミットする」ことを前提としたうえで、以下の方策を提案しています。
(1) ITシステムの刷新…コストとリスクを最低限に抑えるための方策も提示
(2) DX人材の育成・確保
(3) ベンダー企業との新たな関係の構築
これに加え、DXを推進するための新たなデジタル技術の活用とレガシーシステム刷新に関するガイドラインとして
(4) デジタルガバナンス・コード2.0(旧DX推進ガイドライン)
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf
さらには、DXへの取り組み状況を企業が自己診断するためのツールとして
(5) DX推進指標(IPA:独立行政法人情報処理推進機構)
https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/about.html
が提示されました。
特に、(5)については、35項目の指標が明示されており、DX推進の枠組みや、ITシステム構築についての体制など、現在企業が直面している問題やその解決のために押さえるべき事項がわかるようになっています。まずは、これらの確認から始めてみることがいいでしょう。
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