高年齢労働者の健康や体力に応じた業務をマッチング(写真:写真AC)

日本では、少子高齢化が急速に進み人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するためにも、働く意欲を持つ高齢者の活躍が求められています。一方、高齢者は、筋力や敏捷性などの体力が低下しているため、職場における安全配慮の観点から国は「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を策定しています。

このガイドラインにおいて、企業は自社における高年齢労働者の就労状況や業務内容などの実情に応じて、次の5つの事項に取り組むことが求められています。

1)安全衛生管理体制の確立等
2)職場環境の改善
3)高年齢労働者の健康や体力の状況の把握
4)高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応
5)安全衛生教育

これまで「安全衛生管理体制の確立等」「職場環境の改善」および「高年齢労働者の健康や体力の状況の把握」について説明しましたが、今回は「高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応」と「安全衛生教育」について解説します。

1.高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応

(1)個々の高年齢労働者の健康や体力の状況を踏まえた措置

高齢者の労働時間や作業内容は産業医等の意見を聞いて(写真:写真AC)

高年齢労働者は加齢によって、徐々に健康や体力が衰えてくるとされており、その状況に応じて、労働時間を短縮する、深夜の業務回数を減らす、あるいは作業を転換するなど、就業上の措置を講じることが求められています。健康や体力の状況を踏まえて講じる措置は、次の点を考慮します。

・健康診断や体力チェック等の結果、当該高年齢労働者の労働時間や作業内容を見直す場合は、産業医等の意見を聴いて実施する

・業務の軽減等の就業上の措置を実施する場合は、十分な話し合いを通じて当該高年齢労働者の了解が得られるよう努める

・健康管理部門と人事労務管理部門との連携にも留意する など

(2)高年齢労働者の状況に応じた業務の提供

高年齢労働者に適切な就労の場を提供するため、職場における一定の働き方のルールを構築するよう努めることになりますが、その際、留意するべき点があります。

高齢になるほど健康や体力の個人差が拡大(写真:写真AC)

それは、高年齢労働者の健康や体力の状況は高齢になるほど個人差が拡大するとされていることです。つまり、それぞれの労働者の健康や体力の状況に応じて、安全と健康の面で適合する業務を高年齢労働者とマッチングさせることが重要です。それぞれの労働者の状況に応じた対応を行う際は、次の点も認識しておきましょう。

・業種特有の就労環境に起因する労働災害があること、そして労働時間の状況や作業内容により、それぞれの労働者の心身にかかる負荷が異なること

・危険有害業務を伴う労働災害リスクの高い製造業、建設業、運輸業等の労働環境と、第三次産業等の労働環境とでは、必要とされる身体機能等に違いがある

・何らかの疾病を抱えながらも働き続けることを希望する高年齢労働者の治療と仕事の両立を考慮すること など

(3)心身両面にわたる健康保持増進措置

企業は、高年齢労働者が心身両面にわたり健康を保持増進できるように取り組みを進める必要がありますが、具体的には次のような取り組みが考えられます。

・健康診断や体力チェックの結果等に基づき、必要に応じて運動指導や栄養指導、保健指導、メンタルヘルスケアを実施する

・フレイルやロコモティブシンドロームの予防を意識した健康づくり活動を実施する

・保健師や専門的な知識を有するトレーナー等の指導の下で高年齢労働者が身体機能の維持向上に継続的に取り組むことを支援する

・常時50人以上の労働者を使用する企業は、対象の高年齢労働者に対してストレスチェックを確実に実施するとともに、ストレスチェックの集団分析を通じた職場環境の改善等のメンタルヘルス対策に取り組む など