世界最大級の保険・再保険ブローカーであるAonは、1年間に発生した自然災害の被害規模や発生状況のトレンドなどをまとめた報告書を、「Weather, Climate & Catastrophe Insight」として毎年発表しており、本連載でも2021年2月3日にその2020年版と2021年版を紹介させていただいた(注1)。今年も1月25日に最新版が発表されたので、本稿ではこちらを紹介させていただく。
なお、本報告書では1年間のデータをまとめたものが翌年1月に発表されるため、報告書のタイトルには前年の年数がつけられていた(例えば2022年1月に発表された報告書のタイトルは2021年版となっている)。ところが今回からは発表された年の年数が付けられるようになったので、本稿で紹介させていただくのは2022年のデータがまとめられた「2023年版」である。したがって見かけ上は1年スキップされたようなタイトルとなっていることにご注意いただきたい。
本報告書は下記URLにアクセスして「Download the report」というところをクリックすれば、無償でダウンロードできる。
https://www.aon.com/weather-climate-catastrophe/index.aspx
(PDF 115ページ/約 12 MB)
また、本報告書のバックナンバーも同社ウェブサイト(http://thoughtleadership.aon.com/pages/Home.aspx)で公開されている。
報告書の全体的な構成は概ね前年から変わっておらず、データをもとに解説されているセクションは次の4つに分かれている。
・2022 Natural Disaster Events and Loss Trends
・2022 Regional Catastrophe Review(前年はGlobal Catastrophe Reviewであった)
・2022 Natural Peril Review
・2022 Climate Review
まず筆者が興味を持ったのは、「2022 Regional Catastrophe Review」の前に設けられている「Why Robust Historical Data Is Crucial for Identifying Trends」(なぜ確固たる過去のデータが傾向を特定するために極めて重要なのか)という、4ページほどのセクションである。ここでの説明によると、同社が報告書に用いているデータベースは、新たに発生した災害に関する情報が単に追加されているだけではなく、過去にさかのぼってデータの追加修正が行われているのだという。
そのような修正が行われる主な理由は、特に途上国においては被害状況の把握が難しく、後から情報がアップデートされる場合があることや、災害による経済被害が複数年にわたって拡大する場合があること、過去に把握しきれなかった中小規模の災害に関するデータが追加されること、などである。結果的には過去の被害額に関する数字が、最新版の報告書と過去の報告書との間で異なるという状況になっているが、本報告書においては報告書間の整合性よりもデータベースの網羅性や精度を上げることが優先されている。このようなデータ保守を継続的に行うためには、相応のノウハウを持つチームが必要だと思われるので、本報告書のもとになっているデータは、アンケート調査の結果や単に過去のデータを集計したようなものとは比べものにならないような、付加価値が積み上げられたデータであると考えられる。
図1は2022年の1年間に発生した災害における経済被害額のトップ10である。トップは米国およびキューバで発生したハリケーンによるもので、これ1つで全世界の年間経済被害の約3割、保険支払額の約4割を占めている。日本に関連するものとしては3月に福島で発生した地震が6位に入っている。
一般的に、先進国においては人的被害が小さい割に経済被害が大きく、途上国においては人的被害が大きいにもかかわらず経済被害が小さくなるという傾向があるが、この点に関しては本報告書でも同様である。また本連載でもたびたび指摘させていただいているとおり、損害保険の普及が進んでいる米国においては、経済被害額に対する保険支払額の割合が、他国に比べて高くなることが多いが、この点に関してもやはり同様である。別のページに掲載されている保険金支払額のランキングでは、米国で発生した災害がトップ10の中に6件も含まれている。
ここで図1に含まれている福島県の地震に関するデータを見ると、経済被害の約3割が保険でカバーされたという数字になっている。これに対して米国のハリケーンや干ばつ(drought)のデータを見ると、経済被害の半分以上が保険でカバーされている。地震とハリケーンを同列で比べるべきではないと思われるかもしれないが、2020年版に掲載されていた九州での「令和2年7月豪雨」のデータでも、保険でカバーされたのは24%程度なのである。このように見ていくと、日本ではまだまだ損害保険を有効活用できる余地がかなり残っているのではないかと感じる。
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