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本連載で、BCMの専門家や実務者による非営利団体であるBCI(注1)による調査報告書をたびたび紹介させていただいているが、今回はそのBCIが新たに発表した、紛争(conflict)への対応状況に関する調査結果を紹介させていただく。

これは2022年11月30日に発表されたもので、ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、世界各国で発生しているさまざまな紛争によって、企業がどのような影響を受けているのか、また事前の備えや事後の対応としてどのような対策が講じられているのかを、アンケート調査やインタビューから明らかにしようとするものである。

なお本報告書は下記URLにアクセスして、氏名やメールアドレスなどを登録すれば、無償でダウンロードできる。
https://www.thebci.org/resource/bci-resilience-in-conflict-report-2022.html
(PDF 27ページ/約 3.6 MB)
(PDFファイルは見開きで1ページになっているので、印刷した場合のページ数は51ページある)

調査は主にBCI会員を対象として行われており、55カ国の221人から回答を得ている。回答者の43.7%は欧州から、次いで18.2%が北米から、14.3%が中東およびアフリカ、11.3%がアジアから、などとなっている。

本報告書によると、回答者の61.7%は紛争によって何らかの影響を受けているという。影響の種類として最も多いのは燃料価格の高騰などといった二次的なものだが、武力紛争(armed conflict)が発生している地域で事業活動を行っているという回答や、そのような地域に顧客がいるという回答も、それぞれ約半数に達している。また、そのような地域にサプライヤーがいるという回答も25.2%ある。

図1は武力紛争が発生している地域の従業員を守るために、どのような手順(protocols)を準備しているかを尋ねた結果で、回答の多いものから順に国外退避、(国内での)よりリスクの低い地域への移動、サイバーセキュリティやITに関する対策、従業員の家族へのサポート、などとなっている。

画像を拡大 図1.  武力紛争が発生している地域の従業員を守るために準備されている手順 (出典:BCI / Resilience in Conflict Report 2022)


ロシアによるウクライナ侵攻が開始されてから半年以上が経過しているので、図1で示されているさまざまな手順の中には、ウクライナ侵攻が発生した後に整備されたものも含まれている可能性がある(筆者の推測である)。しかし、いずれにしてもこれだけ多様な手順が準備されていることは注目に値する。ぜひ読者の皆様におかれては、図1に並んでいる項目と御社の準備状況を見比べていただき、今後どのような準備を進めるべきかを検討するヒントにしていただければと思う。

これらの中で特に筆者の目を引いたのは、メンタルヘルスや福利(福祉)サービスの提供(Access to mental health and wellbeing services)を準備しているという回答が半数近いことである。本連載で過去に何度か言及したことであるが、海外の(特にBCIの)調査結果においては、従業員のメンタルヘルスに関して何らかの対策をされているという回答が目立つ(注2)

海外の企業ではメンタルヘルス対策が重視されているということなのか、もしくはBCIの調査担当者(注3)がこの分野に関心が高いためなのかは分からないが、いずれにしても非常事態において従業員や家族のメンタルヘルスが重要であることについて疑いの余地はないであろう。筆者自身としても興味を持っている分野なので、もし今後新たな情報が見つかれば、ぜひ紹介させていただきたいと考えている。