不正競争防止法とはどのような法律か(写真:写真AC)

「かっぱ寿司」運営会社の社長が転職前に在籍していた「はま寿司」の営業秘密を不正に持ち出したとして逮捕され、不正競争防止法違反の罪で起訴された事件は、社会の大きな注目を集めることになりました。同法では「不正競争」が定義されるとともに、該当する場合の民事的な措置、さらに一部の場合には刑事上の措置として罰則も定められています。不正競争防止法違反のうち、営業秘密の侵害に関する刑事罰について、弁護士・公認不正検査士の山村弘一氏に解説いただきました。

東京弘和法律事務所/弁護士・公認不正検査士 山村弘一

弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。2006年慶應義塾大学文学部人文社会学科人間関係学系社会学専攻卒業、09年同大学大学院法務研究科法学未修者コース修了、10年弁護士登録、21年公認不正検査士(CFE)認定。一般企業法務、一般民事事件等を取り扱っている。スポーツ法務についても、アンチ・ドーピング体制の構築をはじめとして、スポーツ・インテグリティの保護・強化のための業務に携わった経験を有する。また、通報窓口の設置・運営、通報事案の調査等についての業務経験もある。

はじめに

本年9月、飲食業の上場企業の社長が転職前に在籍していた競合他社の営業秘密を不正に持ち出したとして逮捕され、同10月、不正競争防止法違反の罪で起訴されました。熾烈な競争が繰り広げられている飲食業界において、上場会社のトップが不正競争防止法違反で逮捕・起訴されるという異例の事態であり、社会の大きな注目を集めることになりました。

不正競争防止法は、「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的」(1条)としている法律です。

同法2条1項1号から22号で「不正競争」が定義され、これらに該当する場合の措置として、差止請求権(3条)、損害賠償請求権(4条)などの民事的な措置が定められるとともに、一部の場合には、刑事上の措置として罰則も定められています(21・22条)。

先述の事件は、不正競争のうち営業秘密を侵害した行為について刑事上の責任が問われているものです。本稿では、不正競争防止法違反のうち、営業秘密の侵害に関する刑事罰について説明したいと思います。

営業秘密の侵害に関する刑事罰

営業秘密を不正に持ち出すとはどういうことか(写真:写真AC)

営業秘密の侵害に関する刑事罰については、行為者についての刑事罰を定めた不正競争防止法21条と、法人の代表者、法人(又は自然人たる事業主)の代理人、使用人などが、当該法人(又は自然人たる事業主)の業務に関して違反行為を行った場合における当該法人(又は自然人たる事業主)の刑事罰を定めた同法22条(いわゆる両罰規定)とがあります。

21条についてですが、1項1号から9号までに刑事罰が科される要件(構成要件)が定められており、率直なところ、一読するだけでは正確に理解することが困難であるといえる難解なものが列挙されています。このため、本稿で全てを詳細に紹介することは差し控えますが、1号・2号に規定されているものを取り上げてご説明したいと思います。

21条1項柱書において「次の各号のいずれかに該当する者は、10年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とされ、同1号で「不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、詐欺等行為(人を欺き、人に暴行を加え、又は人を脅迫する行為をいう。次号において同じ。)又は管理侵害行為(財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成11年法律第128号)第2条第4項に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の営業秘密保有者の管理を害する行為をいう。次号において同じ。)により、営業秘密を取得した者」と規定され、同2号で「詐欺等行為又は管理侵害行為により取得した営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、使用し、又は開示した者」と規定されています。