写真はイメージ(Shutterstock)

今年に入り弾道ミサイルを相次いで発射している北朝鮮。10月4日と11月3日にはJアラートまでが発出され、国内は一時騒然とした。今後も挑発行為を続けることが想定されるが、今日本に北朝鮮の弾頭ミサイルが落下するリスクをどう考えたらよいのか。

日本では、ミサイルが撃ち込まれた際の被害想定は今のところ政府から公表されていない。が、米ニュージャージー州のスティーブンス工科大のアレックス・ウェラースタイン教授が開発した「NUKEMAP」では、ミサイルの種類や着弾の場所に応じて、死者数や放射性汚染物質の影響範囲がシミュレートすることができる。

https://nuclearsecrecy.com/nukemap/

NUKEMAPによるシミュレーション(東京上空で2017年に北朝鮮が行った核実験と同じ規模の核爆弾が爆発した際のシミュレーション)

たとえば、北朝鮮が2017年に行った核実験(推定規模150キロトン)と同じものが東京上空で爆発した際には、死者45万4830人、けが人が172万4230人に上ると推計される。

ただし、現在、北朝鮮が挑発行為で発射している弾道ミサイルに、このような核爆弾が搭載されているわけではない。

第37代東部方面総監、元陸将で前ハーバード大学アジアセンター上席研究員の磯部晃一氏は、「北朝鮮が保有している、あるいは開発している弾道ミサイルの脅威という問題と、今挑発行為で打ち上げているミサイルが日本の領土に落ちてくるかもしれないようなリスクは分けて考える必要がある」と指摘する。

そもそもの前提として、磯部氏は「北朝鮮が今、日本に核攻撃を仕掛けるようなことは自滅行為になることを彼ら自身も理解している」と、そのリスクは極めて低いと見る。「日本に意図的に撃つようなことがあれば、日米同盟上、アメリカが必ず反応する。そうなれば、北朝鮮の金正恩体制自体が脅かされることになるので、一般常識的に考えると、北朝鮮はそういう行動は取らないだろう」(同)。

第37代東部方面総監、元陸将で前ハーバード大学アジアセンター上席研究員の磯部晃一氏

しかし、挑発的に発射しているミサイルが偶発的に日本に落下するリスクはゼロとは言えないとくぎを刺す。「11月3日の朝、ICBMと思われるミサイルが、日本の上空を超える可能性があるということでJアラートが発出されましたが、何らかの理由で日本海の上空で消失しました。おそらくミサイル本体で何か不具合があったのではないかと思うのですが、こういう予想されない不具合が生じたときに、ミサイルが異常をきたして落下するということは、ゼロではない」とする。

具体的なリスクの発生確率や影響度がどのくらいなのかは見当もつかない。例えるなら、宇宙に向けて発射されたロケットが不具合により地上に落下した場合が類似するケースかもしれない。1つ、参考になるのが、2021年5月に、インド洋に落下したとされる中国の大型ロケット「長征5号B」の残骸だ。ロイター通信によると、中国国営メディアは当初、大部分は大気圏への突入で燃え尽きるとしていると見ていたが、落下した残骸は全長約30メートルに及ぶと見られているという。弾道ミサイルともなれば、弾頭部は大気圏再突入時にも燃え尽きない構造になっていると考えられるため、仮に弾頭に何も搭載されていなくても、かなり大きな鉄の塊が落ちてくることが考えられる。また、仮に燃料などが残っていた場合には有害物質が含まれていて、それによる汚染なども懸念される。

ただし、一般的に、ロケットについては自爆装置がついていて、軌道を逸脱した際には、大きな被害が出ないように爆破されるようだ。また、日本の場合は内閣府宇宙開発戦略推進事務局で、人工衛星等の打上に係わる許可に関するガイドラインとして、「傷害予測数計算条件及び方法(ロケット)」が定められていて、それによれば、打ち上げ時はもとより故障などにより大気圏再突入による破片の落下なども細かく考慮して「1万回の発射に対して1人死亡」と厳しく技術水準を決めているため、ロケットが落下して大きな被害が出るようなことはまず考えられないと見てよいだろう。