「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)について」気象庁報道発表資料
 

跡見学園女子大学教授
(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事
鍵屋一

1983年早稲田大学法学部卒業後、板橋区役所入区。防災課長、板橋福祉事務所長、契約管財課長、地域振興課長、福祉部長、危機管理担当部長(兼務)、議会事務局長を経て2015年退職。同年京都大学博士(情報学)、跡見学園女子大学観光コミュニティ学部コミュニティデザイン学科教授。「災害時要配慮者の避難支援検討会」など国の検討会委員や、福祉NPO理事等多数。著書に「図解よくわかる自治体の防災・危機管理のしくみ」(学陽書房)「福祉施設の事業継続計画(BCP)作成ガイド」(編著、東京都福祉保健財団)など。


8月8日夕刻の地震で宮崎県、鹿児島県で9名の方がケガをされ、被害を受けた住宅もあることが報道されています。被災された皆様には深くお見舞い申し上げます。

このような大きな地震の後は、再び地震が発生する確率が高まります。暑いさなかで、被災された皆様とともに、救助や復旧、支援活動にあたられる皆様にも、ご安全をお祈り申し上げます。

そして、初めて南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発令されました。南海トラフ地震発生の確率が高まったということで、不安に思われる方も多いと思います。しかし、この情報発令はとてもよいことだと考えます。仮に、この情報が出ていないとき、突然に南海トラフ地震が発生した場合と比べると、おそらく被害は格段に小さくなるでしょう。

今回は、国民と科学者、メディアとの極めて重要なリスクコミュニケーションのチャンスです。

「いま地震が来ても大丈夫か」を考えよう

心配なのは、今回、南海トラフ地震が発生せず(その確率が極めて高い)、しかも何回も、何十回も情報は出るけれど地震は起こらない時、いわゆる「オオカミ少年」のように人々が慣れてしまうことです。

2011年3月9日に三陸地方で最大震度5弱の地震が発生し、津波注意報が発令されましたが、到達した津波は小さなものでした。このときは逃げたのに、たいしたことはなかったと、2日後に発生した東日本大震災の大津波で逃げなかった方もいらっしゃいます。

そもそも南海トラフ地震は30年以内の発生確率が70%~80%とされています。ほとんどの方は、生きているうちに来る地震です。地震が来るか来ないかを考えるよりも「地震が来ても大丈夫か」を考えましょう。今回の情報をチャンスと見て、避難行動、避難生活が大丈夫かをしっかりと確認しましょう。

避難行動では、自分だけでは逃げられない高齢者、障がい者等が心配です。当事者・保護者や支援者の方は想定される避難路を通って、避難場所に行ってみてください。散歩がてらで十分です。

また、この機会に高齢者、障がい者、乳幼児、外国人など配慮の必要な方や保護者は、ぜひまわりに声をかけて避難のお手伝いをお願いしたりして、つながりをつくってください。元気な人は身近にいる高齢者に声がけをお願いいたします。災害時には、人と人のつながりこそが、最も大切なセーフティネットです。

何が足りなくなるのかを考えよう

最後に、避難生活の備えです。津波浸水域の方は避難所に向かいますが、そうでない方は在宅で停電、断水、通信や交通不能のなかで生活しなくてはなりません。下の写真は私たちの仲間が能登半島地震発生後4日目の金沢市のホームセンターで撮影したものです。これを見ると、足りなくなるものがよくわかります。

1月4日金沢市。震災がつなぐ全国ネットワーク 松山文紀氏提供

「防災用品」とあるのは主に3種類です。寒さ対策としてのアルミのブランケットやカイロ、灯りの確保としてLEDランタンや懐中電灯、ろうそく、そしてトイレです。特に誰もが大変なのはトイレの確保です。トイレを4日以上備蓄している人は、わずか4%しかいません。この機会にぜひ簡易トイレなどを備えてください。