2022/11/14
事例から学ぶ
日本に設置されている約78万台のエレベーター。地震時に問題となるのが緊急停止時の閉じ込めと復旧時間だ。国土交通省によると、昨年10月の千葉県北西部地震では約7万8000台のエレベーターが停止、25台で閉じ込めが起きた。閉じ込められた人々は3時間以内に救出され、停止したエレベーターはほぼ48時間以内に復旧している。業界大手の日立ビルシステム(東京都千代田区、光冨眞哉社長)に緊急時の体制を聞いた。
記事中写真・図提供:日立ビルシステム
日立ビルシステム
東京都
※本記事は月刊BCPリーダーズvol.32(2022年11月号)に掲載したものです。
❶地震時の制御から復旧までをシステム化
・法制度改正に対応してエレベーターの機能を進化させてきた。地震時の制御から運転再開までをシステム化・自動化して安全性を向上、同時に古いエレベーターの更新も依頼している。
❷常時監視体制と緊急時応援体制を強化
・ITを駆使して管制センターでの常時監視と状況把握・情報整理体制を強化。同時に大都市近郊に応援人員を配置し、各拠点との情報連携も密にして緊急時にエンジニアが素早く駆け付けられる体制に。
❸ IT・AIを駆使して現場エンジニアをサポート
・集約したエレベーター制御信号データをAIが解析し、故障原因や対応手順を現場に指示。またビルオーナーが被害状況を確認できるスマホアプリなどを導入し、緊急時のエンジニアの負荷を軽減。
震度7レベルで救出8時間・復旧7日以内
日立ビルシステム事業企画本部・事業企画部部長で広域災害対策室の室長を務める辻太郎氏は「当社は約3000人のフィールドエンジニアを擁し、遠隔監視システムやIoTを活用して迅速なサービス体制を構築している」と話す。
同社が国内で管理する昇降機は約21万台。震度7レベルの大規模地震が発生したときの閉じ込め救出は8時間以内、エスカレーターを含めた昇降機の全台復旧は7日以内を目指している。震度5強レベルの中規模地震発生時は、閉じ込め救出1時間以内、全台復旧8時間以内が目標だ。
閉じ込め対策を進める契機になったのが、2005年の千葉県北西部地震。このときも首都圏で最大震度5強を記録、一都三県に設置されている約22万7000台のエレベーターのうち約6万4000台が運転を停止し、78台の閉じ込めが発生した。
同社はこの地震で、専任社員を配置した広域災害対策室を業界で初めて設置。継続的な地震対策に取り組む必要性からの判断だ。現在は対策の充実により、広域災害対策室の社員は他の業務と兼任となっている。
このときの被害をもとに、2009年の建築基準法改正で、最寄り階で自動停止し、利用者を避難させる機能の導入がエレベーターに義務化された。機能の1つは初期微動(P波)を感知しての自動停止、2つは長周期振動への対応、3つは予備電源の設置だ。
これにより、停電を検知して自動的に電源をバッテリーに切り換え、エレベーターを最寄りの階に運び、人を降ろしてから停止させる停電時自動着床装置が不可欠になった。また停電時に避難階へ直行して人を降ろす自家発電時間制運転の導入も必須となった。
近年は、気象庁の緊急地震速報に連動して最寄り階で自動停止し、避難させる機能も追加された。ただし既存のエレベーターに更新義務はなく、オーナーの決断に任されている。日立ビルシステムでは20年~ 25年での更新を依頼しているが、40年以上も更新せず稼働しているエレベーターもあるという。
特に地震の発生が少ない地域ではエレベーターを継続利用する傾向があり「2016年の熊本地震では、関東や東北に比べると2009年改正前のエレベーターが多く、少なくない数の物損事故が発生した」と辻氏は話す。
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