(隅田川沿いに建つADEKA本社ビル)

2022年3月、素材メーカーのADEKA(東京都荒川区、城詰秀尊代表取締役社長兼社長執行役員)の福島・相馬工場で製品の生産が停止した。震度6強の福島県沖地震の強振が原因だった。2009年からBCMに取り組んできた同工場にとって、東日本大震災以来の被害。復旧までの期間を左右したのは、たった1つの部品だ。BCPによる備えで製品の供給は滞りなく続けられたが、新たな課題も明らかになった。

東日本大震災以上の揺れ

2022年の福島県沖地震で相馬工場内で発生したひび割れ(提供:ADEKA)

「地味だけど、すごい。」のキャッチコピーを掲げたブランディングでPRを展開する素材メーカーのADEKA。同社は本社と福島県相馬市にある相馬工場で2009年4月からBCMに着手し、継続的にBCMに取り組んでいた企業でもある。理由は相馬工場で生産しているエンジンオイルの添加剤である「アデカサクラルーブ」が自動車の生産に大きく影響する重要な製品だからだ。

その相馬工場で、2022年3月16日に生産が停止した。原因は福島県沖地震による強振。相馬市では前年2月の福島県沖地震に続いて震度6強を記録した。2011年の東日本大震災の震度6弱を超える揺れだった。工場内では道路のひび割れや地盤沈下が発生し、一部では液状化も見られた。製造が止まったのは揺れによる生産設備の損傷が原因だった。

相馬工場の生産が災害で止まったのは二度目。一度目は東日本大震災。海岸線から400mほどの距離にある工場は、地震発生から1時間以上経って到達した津波に襲われた。

屋外にあったフォークリフトのような特殊車両や一般乗用車、製品や材料を詰めて積んであったドラム缶などが流された。1.5mほどの浸水で受電設備や検査機器などの被害が発生した。しかし、BCMによる備えで製品の供給は止めることはなかった。復旧までの期間を踏まえて在庫を積み増して保管していたからだ。

被害は津波による浸水が主だったため、電気設備などの入れ替えで、工場は6月後半に試運転を開始。7月1日には通常稼働を再開した。当時の改善は、通信の遮断対策に衛星携帯電話の採用。従業員の安否確認のためのシステムを導入した。食料の備蓄なども充実化させた。

2022年の福島県沖地震での被害(提供:ADEKA)

一方、2022年の揺れでは生産設備自体が破損したため製造がストップ。環境・安全対策本部の本部長である吉永雄一郎氏は「大型の反応槽内で回転する、かくはん機のモーター周辺が原因でした。化学プラントなので規模が大きく、製造工程には特注品が多く用いられています。たった1つの部品が手に入らず、製造が再開できなかった」と説明する。

そして、約2カ月後の5月17日に通常稼働を開始させた。この間、製品の供給は、東日本大震災のときと同様に在庫を確保していたために支障は出なかった。しかし、いくつかの課題が浮き彫りになった。