限定的なリスク想定で再発防止はできるのか
第25回:安倍元首相暗殺事件から想定するリスク思考(5)
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
2022/10/11
再考・日本の危機管理-いま何が課題か
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
前回まで、事件発生直後には想像できなかった、ある意味あとからつくられた問題である国葬儀に関する反対運動、政治と宗教の問題から見えてくる危機管理・リスク管理思考を語ってきた。
コラムとしての文章量の限界、その時点での限られた事実関係に加え、文章の拙さにより、意図が正確に伝わったか、十分かつ適切に表現できていたか、自信はなく、はなはだ疑わしいとのご指摘もあるだろう。だが、いったんその視点から離れ、今回からは事件と直接的に関わる警備・警護、捜査による真相解明の問題点について触れることにする。
国葬儀や、政治と宗教に関わる新たな展開が発生した時点、あるいは誤解が生じ疑問が膨らむなど何らかの検証の必要性が発生した場合には、再度検討することとしたい。
さて、今回の暗殺事件は一体なぜ起きたのだろうか。何が問題なのだろうか。その後の対応に問題はないのだろうか。まずは警備・警護の問題に関して語りたい。
当然のことだが、要人警護は結果がすべてであり、安倍元首相という世界に影響力を有する現役政治家が選挙活動中に暗殺された時点で、警備・警護に問題があったとの指摘は避けられない。
実際に問題性は種々指摘されている。警護上の問題性の指摘の主たるものは、発砲2発(3発との情報も当時存在した)の間、警護対象である要人を守る行動が一切確認できていないことだろう。テレビドラマなどで映し出されるSPの雄姿は虚構に過ぎないのだろうか。
諸外国の要人警護の現実を少しでも調べれば自明であろう。日本はそれらの国と比較すれば平和で安全ボケしているといっても過言ではなく、要人暗殺というリスクをリアルに想定し備えることができず、訓練もおざなりになっていたといわざるを得ない。
警護に失敗したSPの方、ご家族の方は今後精神的にも大きな荷物を背負わざるを得ないのは気の毒であり、同情の声もあるが、職業としての職責なので避けては通れない。今後の活動で前向きに乗り越えてもらいたい。同時に、心ない個人攻撃は絶対に慎むべきだろう。
この問題を語る時、筆者は個人の職責というより、組織としての問題を指摘し、再発防止策を議論するべきと考える。
確かに現場で警護行動がとれなかったのは担当であるが、リスクが顕在化する臨場感をもって普段の組織活動が行われていたら、あそこまでの失態はなかったのではないだろうか。その点が諸外国との相違点と感じざるを得ないのだ。
警備に関しても、計画自体が前例踏襲に過ぎず、現実の状況に応じたリスク思考での計画になっているとはいえなかっただろう。
再考・日本の危機管理-いま何が課題かの他の記事
おすすめ記事
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/12/24
能登の二重被災が語る日本の災害脆弱性
2024 年、能登半島は二つの大きな災害に見舞われました。この多重被災から見えてくる脆弱性は、国全体の問題が能登という地域で集約的に顕在化したもの。能登の姿は明日の日本の姿にほかなりません。近い将来必ず起きる大規模災害への教訓として、能登で何が起きたのかを、金沢大学准教授の青木賢人氏に聞きました。
2024/12/22
製品供給は継続もたった1つの部品が再開を左右危機に備えたリソースの見直し
2022年3月、素材メーカーのADEKAの福島・相馬工場が震度6強の福島県沖地震で製品の生産が停止した。2009年からBCMに取り組んできた同工場にとって、東日本大震災以来の被害。復旧までの期間を左右したのは、たった1つの部品だ。BCPによる備えで製品の供給は滞りなく続けられたが、新たな課題も明らかになった。
2024/12/20
企業には社会的不正を発生させる素地がある
2024年も残すところわずか10日。産業界に最大の衝撃を与えたのはトヨタの認証不正だろう。グループ会社のダイハツや日野自動車での不正発覚に続き、後を追うかたちとなった。明治大学商学部専任講師の會澤綾子氏によれば企業不正には3つの特徴があり、その一つである社会的不正が注目されているという。會澤氏に、なぜ企業不正は止まないのかを聞いた。
2024/12/20
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方