(出典:Shutterstock)

今回紹介させていただくのは、欧州リスクマネジメント協議会(Federation of European Risk Management Associations:略称 FERMA)(注1)による調査報告書「European Risk Manager Report 2022」である。これはFERMAが主に会員組織を通して、企業などのリスクマネジャー(注2)を対象として行ったアンケート調査の結果をまとめたものである。この調査は1年おきに行われているもので、前回の調査結果(2020年版)も本連載で紹介しているので、あわせてご参照いただければ幸いである(注3)

なお本報告書は下記URLから無償でダウンロードできる。
https://www.ferma.eu/publication/european-risk-manager-report-2022/
(PDF 50ページ/約 5.8 MB)

調査は2022年1月から3月にかけてWebサイトでのアンケートにて実施され、27カ国の556人から回答を得ている。前回調査が34カ国764人だったので若干目減りしているが、その理由については特に記載は見当たらない。なお前回調査ではフランスからの回答が21%と突出していたが、今回は12%に減少しており、前回に比べると各国間のバランスが良くなったと感じられる。ちなみに主な国ごとの回答者の割合は、ドイツ10%、イタリア9%、スイス4%、ベネルクス3国で18%となっている。どういう訳か英国からの回答は1%しかない(前回は4%あった)。

なお、前回の調査は新型コロナウイルスによるパンデミックが始まる前に行われたため、報告書本文中にもパンデミックによる影響があまり反映されていないという注意書きがあった。今回は調査期間中にロシアによるウクライナ侵攻が始まっており、この点について報告書中には特に言及がないが、その影響が反映された回答とそうでない回答が混ざっている可能性がある。

図1は今後12カ月間に最も懸念されている脅威をたずねた結果の中から上位15位までをまとめたものである。中心の最も濃い色の部分に上位5位まで、その外側に広がる同心円の部分にそれぞれ上位10位までと15位までが表示されている。オレンジ色でプロットされている「New risk」とは、前回調査で上位15位までに入っていなかったものである。

画像を拡大 図1.  今後12カ月間に最も懸念されている脅威 (出典: FERMA / European Risk Manager Report 2022)

以前に2020年版を紹介した記事(注3)にも同じ図を載せてあるので、両者を見比べていただけると変化が分かりやすいのではないかと思うが、今回の図で特に目を引くのは、新たに次の4つが上位15位圏内に入ってきたことである。

・サプライチェーンの途絶(Supply chain or disruption)
・社会的圧力の増加(Increased societal pressure)
・パンデミックおよび健康面に関する危機(Pandemic risk / Health crisis)
・テロリズム(Terrorism)

2020年版では新たに入ってきたリスクが「自然災害」と「極端な気象現象」の2つだけだったことと比べると、この2年間で欧州のリスクマネジャーの認識が大幅に変化したことがうかがえる。

一方で次の3つは前回から変わらず上位5位以内に入っており、継続的に関心を持たれているリスクであることが分かる。

・サイバー犯罪などに関する脅威(Cyber therats)
・経済成長の不確かさ(Uncertain economic growth)
・過剰な規制(Over-regulation)

なお、「地政学的な不確実性」(Geopolitical uncertainty)が前回より若干順位を下げているが、これはウクライナ侵攻の影響があまり反映されなかった結果ではないかと思われる(筆者の推測である)。調査時期が3カ月後だったら、これはもっと上位に入ったであろう。