安倍晋三元首相の銃撃事件から、市民のフィジカル・セキュリティを再考する(写真:写真AC)

2022年7月8日、日本中で祈りが捧げられた日ではないでしょうか? 安倍晋三元首相のことを好きとか嫌いとか、政治信条が違うとかは関係なく、命だけは助かってほしいと。

遊説の危険性

Webニュースで安倍元首相の襲撃速報を見た時、「え?嘘?銃で?SPは?日本の出来事?」と思った方は多かったでしょう。私もその一人です。

最初は散弾銃という報道でした。銃の所持許可を持つ身として、それはさすがにないだろうと思いました。遊説中、聴衆がいる目の前で、散弾銃を持って近づき、構えて、狙って、撃つなんてことは、目立ちすぎます。

その後の捜査で、自作の銃を使用し、購入した空薬莢に犯人自ら火薬を詰めたことが明らかになりました。散弾銃の空薬莢はフリマサイトで簡単に購入できますし、火薬の詰め方、手製銃のつくり方はインターネット上に写真付きの詳細な説明があふれています。空薬莢の売買について、今後規制がかかるかもしれません。

聴衆に向かって演説したり、握手したりと、多くの人々と非常に近い距離で接することになるため、選挙の遊説は非常に危険と言われています。

街頭演説の場合、路上に集まる人々に対し、荷物検査やボディチェックはほとんど行いません。危険物を所持していないと確認が取れていない人たちが演説者を囲んでいる状態です。周辺の歩道橋やビルにも人がいて、演説者を見ていますから、上からの攻撃もあるかもしれません。

昨年の衆議院選挙の時、岸田首相が候補者の応援のため佐賀県へやってきました。唐津へ移住していた私は、ミーハー心から見学へ。現首相の遊説でしたから、かなりのSPがいました。

筆者撮影 2021.10.23

演説中は車上の首相のそばと車の周囲にSP、集まった聴衆を囲むようにSP、演説後のグータッチ時は、首相の前後にSPという体制でした。

筆者撮影 2021.10.23

しかし「これほど近い距離では守り切れない場面があるかも」「こういうパターンで攻撃されたらどう対処するのだろう」等々、岸田首相の前後左右を守るSPを見ながら、私は考えていました。

今回、演説している安倍元首相の背中側は道路でした。映像で車の通過が確認できるので、セキュリティの観点から車の往来を止めることはしていませんでした。また、道路を挟んだ向こうにも聴衆が立っており(実際そこに容疑者もいました)、銃や爆弾であれば狙える距離でした。

この現場では、ボディチェックや荷物検査はしていませんでした。何か危険なものを持っている「かもしれない」人がいる「かもしれない」し、危険物を持っている人は一人ではない「かもしれない」、つまりその場にいる全員が危険と隣り合わせだったといえる状況だった「かもしれません」。