本稿では前回(注1)に引き続き、リスクマネジメントや保険に関する業務に従事している人々による非営利団体であるAirmic(注2)が2022年6月に発表した年次報告書を紹介させていただく。本報告書は下記URLから無償でダウンロードできる。
https://www.airmic.com/technical/library/airmic-annual-survey-2022-risk-and-resilience-perfect-storm
(PDF 60ページ/約20 MB)
本報告書は次の6つのセクションで構成されており、前回は3つめのセクションまでを紹介させていただいたので、本稿では4つめのセクション「Overcoming transition risks: The key to ESG targets」(移行リスクの打開:ESG目標への鍵)から説明を始めたいと思う。
セクションのタイトルにある「移行リスク」(transition risk)という言葉には、馴染みのない方もおられるかも知れない。これは気候変動の緩和などを意図して政策や規制が変わったり、企業や消費者の行動が変わることによる影響を受ける可能性をいう。例えば燃料に関するコストが急増したり、環境へのインパクトが大きいとみなされる商品が売れなくなったりすることなどが該当する。
同じくセクションのタイトルの後半にある「ESG」が環境・社会・ガバナンスの略であることは、ご存じの方が多いのではないかと思う。このようなタイトルからもお分かりいただけるように、4つめのセクションのテーマは気候変動に関する諸問題への対応である。
図1は回答者が所属している組織が、気候変動やネット・ゼロへの移行(transition to net zero)に関して、どのような側面を最も懸念しているかを尋ねた結果である。ここで「ネット・ゼロ」については「カーボンニュートラル」と言われた方がピンとくる方が多いかもしれないが、これは二酸化炭素の排出量を減らすか吸収力を高めることで、最終的な二酸化炭素の排出量をゼロにすることを指す。
1位がレピュテーション(注3)への悪影響、2位には同率でサプライチェーンへの影響と適応(adaptation)が並んでいるが、特に本報告書では、気候変動緩和のための取り組みに後ろ向きであることがレピュテーションへの悪影響に繋がることが指摘されている。
なお本稿では図を省略させていただくが、本報告書では回答者の業種を次の5つのグループに分けて、図1の設問に対する回答の内訳が掲載されている。
a) 専門的サービス(会計事務所やコンサルティングファームなど)、弁護士や法律事務所、銀行や金融サービス
b) 小売業、消費財、食品や飲料
c) 建設、エンジニアリング、製造業、化学
d) エネルギー、ユーティリティ、製鉄業、鉱業
e) 輸送、物流、レジャー、旅行、サービス業
これらのグループの中で、レピュテーションへの悪影響が最も懸念されているのはaとdである(dでは「適応」と同率で1位)。一方、c、d、eのグループではいずれも「適応」が1位となっている。これはネット・ゼロへの移行に適応するための、既存の業務プロセスや技術、製品・サービスの転換がうまくいかない可能性が懸念されているということであろう。
前回述べたとおり、本調査の回答者の多くは世界有数の大企業であるから、TCFDの提言(注4)への対応に取り組んでいる企業も多いと思われ、その結果として気候変動への適応に対する問題意識が高い人が多く含まれていると推測できる。したがって本調査の結果は、欧米の企業全体の姿を代表している訳ではなく、先進企業における問題意識が反映されていると考えるべきであろう。
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