スイス再保険グループの調査機関である Swiss Re Institute が、情報誌「sigma」の2022年第1号を3月末に発表した。これまで本連載で紹介させていただいた、他の大手保険/再保険会社からの報告書と同様に、世界規模での災害発生状況や経済損失に関する豊富なデータの分析に基づく、興味深い内容となっているので、本稿ではこちらを紹介させていただきたいと思う。
本報告書は下記URLにアクセスして「Get the publication」というボタンをクリックし、氏名やメールアドレスなどを登録すれば、無償でダウンロードできる。
https://www.swissre.com/institute/research/sigma-research/sigma-2022-01.html
(PDF 36 ページ/約 3.1 MB)
本報告書は2021年における自然現象による災害の発生状況や、これらによる経済損失、保険金の支払額などを世界規模で分析した結果に基づいてまとめられており、個々の災害に関する個別の情報よりもむしろ、全体的な現状やトレンドを把握するのに役立つ内容となっている。特に2021年は欧州で大規模な洪水が発生したこともあり、洪水被害に対する課題認識が高くなっていると思われる。
図1は1991年以降に全世界で発生した災害の発生件数と、保険金が支払われた損失額の推移である。棒グラフは緑色の部分が地震/津波、水色の部分が気象関連の災害である。緑色の丸印は「natural catastrophe events」と書かれており、自然現象による災害の件数を示している(注1)。2017年の損失額が特に大きくなっているのは、Harvey、Irma、Mariaという3つのハリケーンが影響しているという。
棒グラフの伸び方だけを見れば、2016年以降の上昇傾向や、2019年以降の直近3年の増え方が目にとまるかもしれない。また本報告書によると、直近5年間(2017〜2021年)の年平均損失額は 1,010億米ドルで、これはその前の5年間(2012〜2016年)の2倍以上となっているという。
このような状況を見ると、ここ数年で損失額が特に増えているという印象を受けるが、本報告書ではより長期的なトレンドから状況を捉えられている。長期的なトレンドは10年間移動平均(紫色の折れ線)で示されているが、そのなかで2012〜2016年は「保険業界にとって穏やかな局面(benign phase)」と表現されており、これが2017年以降の損失額の増加によって、毎年5〜7%増加するという長期的なトレンドに「戻った」と表現されている。
恐らく読者の皆様も含めて多くの方々が、災害が最近増えているという印象をお持ちだと思われる。多くの場合、そのような印象は直近数年程度の記憶や、報道などで認識しうる国内での災害や、海外での特に大規模な災害の発生状況から、特に影響を受けていると思われる(筆者もそうである)。これに対して本報告書は世界的規模の再保険会社の視点でまとめられており、トレンドを考える時間軸の長さが一般人と大きく異なることを改めて認識させられた。
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