ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情
オープンハウスによる地域住民交流について
堅苦しい挨拶は抜き。明るく楽しもう!
一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事/
一般社団法人 日本国際動物救命救急協会 代表理事
サニー カミヤ
サニー カミヤ
元福岡市消防局レスキュー隊小隊長。元国際緊急援助隊。元ニューヨーク州救急隊員。台風下の博多湾で起きた韓国籍貨物船事故で4名を救助し、内閣総理大臣表彰受賞。人命救助者数は1500名を超える。世田谷区防災士会理事。G4S 警備保障会社 セキュリティーコンサルタント、FCR株式会社 鉄道の人的災害対応顧問、株式会社レスキュープラス 上級災害対策指導官。防災コンサルタント、セミナー、講演会など日本全国で活躍中。特定非営利活動法人ジャパンハート国際緊急救援事業顧問、特定非営利活動法人ピースウィンズ合同レスキューチームアドバイザー。
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ニューヨークに住んでいたとき、家の近くにボランティア消防団があり、年に2回、土日に消防署を開放して住民交流を図るためのオープンハウスやパレードが行われていた。
オープンハウスでは地域の警察や病院、コーストガードや保安官など、さまざまな地域を守る関係者が集まり、子供向けの展示や体験を開催している。
Fort Mill Fire Department Open House (出典:Youtube)
日本でも火災予防広報の時期やお祭りの時など、消防署の外での住民交流の場としてミニ救急車や消防車を展示するほか、子供用防火衣を着せての写真撮影や消防グッズアメニティーのくじ引きなどが行われてる。
もちろん住民に楽しんでもらうだけでなく、一歩踏み込んで季節災害および地域で知っておくべき防災知識の共有や、住民が使えるスタンドパイプセットのデモ、大型消火器の使い方、避難誘導の方法、屋外避難時でも煙を吸わないように口をタオルやハンカチなどで覆う方法などの防火教育も行われている。
海外の消防署で、どのような火災予防広報や住民防災教育が行われているかを調べてみると、消防署内を見学することで消防士がどのような生活をしているのかを知ってもらうことが主な目的になっていることがわかる。
Check out the Singapore Central Fire Station (出典:Youtube)
たとえば、消防士がスーパーで買い物をして消防署内で食事を作ることは、災害発生時にスーパーなどが被災して食料などが調達できなくなった場合でも、署内備蓄を生かして住民の命を助ける消防士達のエネルギー源である食事を確保していることが分かる。
また、一時避難所として消防署に逃げ込んできた方々への炊き出しの際にも役立つ。日々の食事を署内で作っていることは大切なことだというようなこともオープンハウスの時に直接、理解を求めている。
ユニークな取り組みとしては、オープンハウス時に消防士達の手作りメニューを地域住民の方々に試食してもらうこと。消防署自慢のご当地メニューがあったり、消防署毎に得意メニューが違うなどの食べ比べが出来たりして、地域社会との心が通う交流の場になっている。
オープンハウスの光景は、地域のメディアが取材して番組になることもある。消防署側は広報ビデオを制作するためにオープンハウスの様子を撮影し、2次的な消防広報に役立てている。
さらに、オープンハウスの参加者の方々にメール登録をしてもらい、ハリケーンが近づいているときには注意喚起と具体的な避難要領や安全な場所、対応優先順位を指導したり、各種災害毎に地域に特化した住民安全情報を発信したりしている。
下記はシンガポール市消防局のマスタープラン(組織運営の指針)に基づいた内容の映像。日頃行っている地域の災害特性に気づかせるとともに、経年劣化して発災リスクが高まっている危険物取り扱い施設を想定した実戦訓練シーンなど、予算要望の際に必要な議員へのプレゼン内容なども含まれている。
SCDF Workplan 2017 Video (出典:Youtube)
下記のリンクで世界中のオープンハウスの映像を見ることが出来るが、どこの消防署も30〜40歳台の職員に企画・制作から全てを任せていて、幹部は黙って若い職員達の考えや感性の表出に協力していることがわかる。
■世界の消防署におけるオープンハウス映像
https://www.youtube.com/results?search_query=fire+station+Open+House+2018
どのオープンハウスの映像を見ても分かるのは、挨拶など堅苦しいものが1つもないこと。最後まで住民の方に家族連れで明るく楽しんでいただき、消防署が防火・防災の学びを住民自らが体験して考えるきっかけや入り口になっている。
日本の消防操法大会、競技やイベントなどでは、終了後の区長や町長、地元議員や各消防協会関係者による複数の挨拶が行われるのが通例だ。そのほぼ9割方が「年頭の辞」を参考に作成されているため、ほぼ読めばわかる同じ内容で、いかに事務的な挨拶か、また、挨拶を本気で考えていないかが分かり、疲れている職員の立場を考えておらず、全くの逆効果であることを強く感じる。
■年頭の辞
http://www.fdma.go.jp/ugoki/h2901/2901_03.pdf
よく各地に消防戦術や消防組織マネージメントなどの講演に行った際に優先的な改善事項として上がるのは、組織幹部の意識改善であるというアンケート結果が多い。
たとえば幹部は、
・新しい考えや手法、訓練などを取り入れようとしない。
・新しいものには全て蓋をする。
・自分の経験でしか判断しない。他を受け入れようとしない。
・新しい意見には、まず、否定やだめ出しから始まる。
など
アンケートで共通しているのは、「ほとんどの幹部はネットに弱く、新しい情報を自ら得ることもしないため、過去に依存するしかなくネットに精通した若い職員たちと大きなギャップが出来ていることに気づいていない。ただ、階級が上というだけで、時代錯誤の感覚にもとづいた判断をされることで士気が低下している。もちろん、新しいものが全ていいとは思っていないし、予算などの事情も知っているが、組織が成長する上で、改善課題は常に卓上にさらしておいて、全ての職員が前向きな姿勢を保ち続けることが組織にとって大切なことだと思う」ということだ。
多くは30代の職員の方のコメントだが、とても頼もしい。こういう意識を持った若手職員達に組織運営を託していくことで、さまざまなアイデアが生まれ、地域住民に愛される消防組織に育つのではないかと思う。
(了)
一般社団法人 日本防災教育訓練センター
https://irescue.jp
info@irescue.jp
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