福祉と防災を一体で進めるには(写真:写真AC)

前回に続いて、都市防災推進セミナーの概要をお伝えしたい。①個別避難計画②福祉避難所③福祉施設のBCPが中心である。

第23回都市防災推進セミナー
「福祉防災元年~ 迫り来る地震や水災害に備え、避難行動要支援者の安全な避難を図り、福祉避難所の効果的な運営のために~」
その2

(3)事例報告1
別府市防災局防災危機管理課防災推進専門員 村野淳子氏 

村野氏からは「地域とともに多様な団体・組織と進める別府市インクルーシブ防災”誰ひとり取り残さない防災”」と題して、事例報告を行っていただいた。

村野氏は2003年の宮城県北部連続地震災害以来、全国の被災地で支援活動を続けてきた。そして毎回、被災地で高齢者や障がい者が苦境に陥ることが繰り返されていると述べている。

別府市では条例により障がい者の防災に関する規定を定めている(写真:写真AC)

これを防ぐために、2016年から別府市で個別支援計画のモデルづくりを行っている。このモデルが、今年度の個別避難計画制度改正に大きな影響を与えている。そこでは、従前から福祉フォーラム別杵速見実行委員会という障がい当事者や家族、支援者の組織があり、2014年には「別府市障害がある人もない人も安心して安全に暮らせる条例」の制定に力を尽くしている。この条例で障がい者の防災に関する規定を定めている

(防災に関する合理的配慮)
第12条 市は、障害のある人に対する災害時の安全を確保するため、防災に関する計画を策定するに当たっては、障害のある人への配慮に努めるものとする
2 市は、障害のある人及びその家族が災害時に被る被害を最小限にとどめるため、災害が生じた際に必要とされる援護の内容を具体的に特定した上で、非災害時におけるその仕組みづくりを継続的に行うよう努めるものとする。

この規定に根拠を置き、村野氏らは障がい者が災害時に抱える課題について一つずつ、丁寧に議論を進めてきた。中でも、障がい当事者、家族、地域住民が一堂に会して、安全な避難と避難生活を考える調整会議の場を設けて、本音で話し合う姿は圧巻である。

さらに、訓練ではその場で住民がさまざまな工夫をして避難支援を行っている。村野氏は場づくりのために、何度も足を運んだという。大切なのは、職員の覚悟と熱意であり、その姿を見てもらい信頼関係ができることで物事が進むのだと改めて実感する。

(4)事例報告2
社会福祉法人海光会理事長 長谷川みほ氏

長谷川氏からは「介護施設における事業継続とは~計画は鮮度、実行は熱量が命~」と題して、事例報告を行っていただいた。

まず、このサブタイトルにしびれた。計画は鮮度、実行は熱量が命、である。計画は常に見直しながら生きのいいものにしておかなければならないし、実行は情熱を込めて行わなくてはきちんと遂行できない、という長谷川氏の思いが伝わってくる。

海光会は、熱海市で海光園という介護老人福祉施設を経営している。事業内容は入所として80名の特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、短期入所、それに通所介護、訪問介護を行っている。通所、訪問は一時休止ができるが、入所は事業休止ができない。

長谷川氏は2011年の東日本大震災に衝撃を受け、自ら静岡県ふじのくに防災士認定を受けたほか、毎年1名の防災士認定を目標として着実に職員の防災力向上に努めている。また、防災対策会議を偶数月に行い、BCP及び業務手順書を完成させた。これが評価され、2016年に内閣官房国土強靭化室の「民間の取り組み事例集」に掲載され、同年レジリエンス認証を取得した。

2018年には災害に加え、感染症、防犯を含めた3大リスクに拡張した訓練計画を作成し、レジリエンス認証更新(ゴールド取得)している。この間、貯水槽から直接取水できる蛇口取り付け、ガス式自家発電機の設置などハード対策も進めている。

驚くのは毎月の真剣な訓練である。海光会のホームページで公開されているので、ぜひご覧いただきたい。

とにかく訓練。そして、検証、見直しの繰り返しと、まさに王道を歩まれている。その成果が出たのが新型コロナ感染症対策である。新型コロナ感染症発生のニュースが伝わるとすぐに衛生用品(マスク、次亜塩素消毒液、プラスティック手袋等)を再検証し、すばやく増量手配した。2020年5月にはCOVID19版BCP(Ver1)を作成し、影響度分析と経営資源(情報・人・物・金)の備えを行った。2021年9月には(Ver2)に改定している。まさに、「計画は鮮度が命」を実践されている。