2018/05/11
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
山では『今やるべきことは先延ばしせず今やる』
山で迷ったとき、元来た道を引き返すのが鉄則です。でも、引き返せない事について、
・人に備わる楽観的思考が未来を過小評価する
・非常時でも正常時と同じだとして扱いたい正常性バイアスが働き、リスクを回避できなくなる
・決断を避け問題を先送りする事によりリスクが積み重なる
などが挙げられています。
山の遭難だけの問題ではないなと感じていただけるのではないでしょうか?通常時は、もう少し、様子を見るためにこのまま行こうという楽観思考が職場や学校で良い結果をもたらすことがありますし、実際、ポジティブ思考の方が推奨されます。しかし、非常時の判断方法として、これらはリスクを増大させる原因になってしまうことに気づかされます。
山の道迷い遭難対策として、こんなことも書かれています。
「『楽をしたい』『面倒くさい』『どうにかなるだろう』などなど、引き返すことを妨げる心理は様々だ。だが、決断を迫られている場面で最も重要になってくるのは、『今ここでやらなかったらいつやるんだ』ということ。山では『今やるべきことは先延ばしせず今やる』ことがリスクの回避につながっていく」
おかしいなと思った時点ですぐその場から引き返す決断をすること、これをあらかじめ意識しておくかしないかで随分その後が変わることがわかります。本の中でも、過去に遭難されたあと、再び登山を始めた方が、このことを強く意識され、道に迷ったら引き返すことを徹底して危機回避されている事例がありました。
また、正常性バイアスがかかった際によく言われることが、2つ以上の危機の事実を認識できれば、バイアスが解除されやすいというものがあります。非常ベルが鳴っても避難行動を取らない人でも、煙を感じたら避難を始められるというものです。山での道迷いで何か、あらかじめこの2つ目の事実となるような対策を取れないものかと思っていたところ、羽根田氏に直接お話を伺った際、いくつかヒントをいただいた気がしています。
まず、山では、分岐点に来たらあえて指をさして、行く方向を確認する事にするというアイデアです。
決断を見える化しているので、どこで迷ったか、戻りやすくなりますよね。このことから、非常ベルが鳴ったとき、あえて非常ベルの方向に指をさして、自分が決断しなければいけないことを思い起こすというのもいいのかなと思いました。
非常ベルが鳴ったら、「非常ベル」と声に出してみると決めておいてもいいかもしれません。羽根田氏は、クライミングの際のロープがきちんと結ばれているかをパートナーが確認する作業と同じように、分岐で声を出し確認し合う作業も大切とおっしゃっていました!
また、他にもこんなことを教えていただきました。もうすぐ下山できるからといって油断しないこと。あと5分で麓にたどり着くところで滑落し、命を落とされてた方もいます。さらに、子ども連れの場合、子どもから目を離さない重要性を述べられていました。
子育て世代の方は、そうはいっても子どもは野外で張り切って親から離れがちなので、目を離すなというのはかなり難しいと思われるかもしれません。
でも、水難事故のケースでいつも言っているのですが、水辺では、必ず子どもだけを見ている係の人を作り出さなければいけません。バーベキューなどに全員が気をとられている間に事故が起こりやすいのです。山は歩いていれば必ず麓につくというわけではないこと、上記記事でご理解いただけたと思います。
大人でさえも簡単に道に迷うのです。まして、子ども視点で山歩きをすると、大人が考えもしなかった道が、通れるように見えてしまうこともあります。親から離れるなと言い聞かせが難しい子どもに対し、目を離さざるを得ない時には、他の人に頼める体制を作ること、これが山でも大切だと私も認識をあらたにしました!トイレに行っている際など、目を離す場面は結構ありがちです。
ということで、遭難の記事が目につくこの時期、山岳遭難対策を知っていただくと同時に、遭難を人ごとと思わず、誰にでも起こりうる心理状態について考えていただければなと思います。
この、災害時に陥りやすい心理への対策については、まだまだ解明されていない部分も多いでしょうが、山岳遭難から学ぶこともできるではないかなと思っています。
非常時の正常性バイアスによるリスク回避については、皆さまのアイデアも募集したいので、ご意見お待ちしております!
(了)
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方