山では『今やるべきことは先延ばしせず今やる』

山で迷ったとき、元来た道を引き返すのが鉄則です。でも、引き返せない事について、

・今までかかったコストとこれからかかるコストを比べ、今までのコストが大きい方が、これからのコストが未知にもかかわらず過小評価する。よって体力がなければその傾向が強まる。
・人に備わる楽観的思考が未来を過小評価する
・非常時でも正常時と同じだとして扱いたい正常性バイアスが働き、リスクを回避できなくなる
・決断を避け問題を先送りする事によりリスクが積み重なる


などが挙げられています。

山の遭難だけの問題ではないなと感じていただけるのではないでしょうか?通常時は、もう少し、様子を見るためにこのまま行こうという楽観思考が職場や学校で良い結果をもたらすことがありますし、実際、ポジティブ思考の方が推奨されます。しかし、非常時の判断方法として、これらはリスクを増大させる原因になってしまうことに気づかされます。

山の道迷い遭難対策として、こんなことも書かれています。

「『楽をしたい』『面倒くさい』『どうにかなるだろう』などなど、引き返すことを妨げる心理は様々だ。だが、決断を迫られている場面で最も重要になってくるのは、『今ここでやらなかったらいつやるんだ』ということ。山では『今やるべきことは先延ばしせず今やる』ことがリスクの回避につながっていく」

おかしいなと思った時点ですぐその場から引き返す決断をすること、これをあらかじめ意識しておくかしないかで随分その後が変わることがわかります。本の中でも、過去に遭難されたあと、再び登山を始めた方が、このことを強く意識され、道に迷ったら引き返すことを徹底して危機回避されている事例がありました。

また、正常性バイアスがかかった際によく言われることが、2つ以上の危機の事実を認識できれば、バイアスが解除されやすいというものがあります。非常ベルが鳴っても避難行動を取らない人でも、煙を感じたら避難を始められるというものです。山での道迷いで何か、あらかじめこの2つ目の事実となるような対策を取れないものかと思っていたところ、羽根田氏に直接お話を伺った際、いくつかヒントをいただいた気がしています。

まず、山では、分岐点に来たらあえて指をさして、行く方向を確認する事にするというアイデアです。

決断を見える化しているので、どこで迷ったか、戻りやすくなりますよね。このことから、非常ベルが鳴ったとき、あえて非常ベルの方向に指をさして、自分が決断しなければいけないことを思い起こすというのもいいのかなと思いました。

非常ベルが鳴ったら、「非常ベル」と声に出してみると決めておいてもいいかもしれません。羽根田氏は、クライミングの際のロープがきちんと結ばれているかをパートナーが確認する作業と同じように、分岐で声を出し確認し合う作業も大切とおっしゃっていました!

また、他にもこんなことを教えていただきました。もうすぐ下山できるからといって油断しないこと。あと5分で麓にたどり着くところで滑落し、命を落とされてた方もいます。さらに、子ども連れの場合、子どもから目を離さない重要性を述べられていました。

子育て世代の方は、そうはいっても子どもは野外で張り切って親から離れがちなので、目を離すなというのはかなり難しいと思われるかもしれません。

でも、水難事故のケースでいつも言っているのですが、水辺では、必ず子どもだけを見ている係の人を作り出さなければいけません。バーベキューなどに全員が気をとられている間に事故が起こりやすいのです。山は歩いていれば必ず麓につくというわけではないこと、上記記事でご理解いただけたと思います。

大人でさえも簡単に道に迷うのです。まして、子ども視点で山歩きをすると、大人が考えもしなかった道が、通れるように見えてしまうこともあります。親から離れるなと言い聞かせが難しい子どもに対し、目を離さざるを得ない時には、他の人に頼める体制を作ること、これが山でも大切だと私も認識をあらたにしました!トイレに行っている際など、目を離す場面は結構ありがちです。

ということで、遭難の記事が目につくこの時期、山岳遭難対策を知っていただくと同時に、遭難を人ごとと思わず、誰にでも起こりうる心理状態について考えていただければなと思います。

この、災害時に陥りやすい心理への対策については、まだまだ解明されていない部分も多いでしょうが、山岳遭難から学ぶこともできるではないかなと思っています。

非常時の正常性バイアスによるリスク回避については、皆さまのアイデアも募集したいので、ご意見お待ちしております!

(了)