2021/11/12
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスク
監督当局からの要求
最後に、GDPRに関連したデータ侵害通知が行われた後に、通知を行った企業がどのようなことを監督当局から要求されたのか、その実態を追ってみたい。
今年7月に英国のデータ保護監督当局ICOが公開した年次報告書 *5 によると、2020-2021年度でICOに報告された通知件数は9,532件とのことである。これはGDPRが施行された最初の年度である2018-2019年の13,840件より3割減っており、本報告書では新型コロナウイルスによる影響で報告が減少していると述べている。
新型コロナウイルスがどのように影響したのかその詳細については述べられていないが、業務の形態が変化したことによって報告が行われていなかったり、そもそも被害に気付けていないといったことがあるのではないかと推察される。実際この一年あまりの間に見てきたサイバー攻撃被害においても、自社の異変に在宅勤務で気付くことができず、外部からの指摘で自社の被害に気付いたという企業をいくつも見てきた。
では、通知を行なった9,532件は、その後どのような対応を監督当局から迫られているのだろうか?
意外と思われる方もおられるかもしれないが、なんと71.4%のケースでは追加のアクションを求められることも無く対応が終了している。
実際、サイバー攻撃を受けたものの被害が認められなかったケースや、深刻な影響が生じないと判断されたケースでは、監督当局への通知後に監督当局より通知を受理した旨を知らせる連絡があるものの、特段の追加報告が無いようであればこのケースは終了すると告げられる。もちろん、のちに何らかの事情により被害が確認された場合には、監督当局への通知があらためて必要であるためこの限りではない。
単に法律の話というわけではない
21.6%のケースでは、追加の調査実施を監督当局が要求している。つまり、5件に1件は通知の内容が不十分もしくは不明瞭、または何らかの理由で追加の調査が必要な状況であるということだ。GDPRは法律の話ではあるものの、技術的な状況についても逐一把握して通知していかなくてはならないため、双方への知見が対応には求められることは確かだ。
また、3.9%のケースでは、企業や組織などの通知を行なった主体が講じるべき追加措置について、監督当局からアドバイスを提供されている。
ここで意外だと思われる方もおられるかもしれない。監督当局は企業や組織に制裁を科すことが目的ではなく、被害最小化のために共に歩んでいく姿勢を示している。そのため、第一報の通知に対する返答では、アドバイスが必要であれば尋ねて欲しいといったことも告げられる。例えば英国であれば、ICOだけでなくNCSC(国家サイバーセキュリティセンター)などのサイバーセキュリティに関連した省庁でも窓口を設けて企業や組織の被害最小化を支援している。
そして、多くの方が最も関心をお持ちであること。実際、どれだけの割合で是正勧告や制裁が科されたのかということだろう。これは0.1%のケースで、是正勧告や制裁が科されている(ただし、ここまでで述べてきた以外にも少数のいくつかの対応事例があるため、ここまで出てきた数字を足しただけでは100%にならないことをお断りしておく)。
この数字を多いと思われるか、少ないと思われるかはそれぞれの環境や立場などにもよるだろう。英航空会社での個人データ侵害*3などのように、大規模な被害が生じたケースは報道で取り上げられることも多いため、さらに多くの企業が制裁を科されていると考えておられた方もおられるのではないかと思う。
サイバー攻撃の被害に遭った上に制裁まで科されてしまわぬよう、技術的対応および組織的対応の実施と、迅速かつ適切な対応が取れるよう平時からの備えが必要である。
出典
*1 https://www.willistowerswatson.com/ja-JP/Insights/2021/03/crb-nl-march-adachi
*2 https://ico.org.uk/media/action-weve-taken/decision-notices/2021/2620369/
ic-113334-v5p7.pdf
*3 https://www.willistowerswatson.com/ja-JP/Insights/2021/04/crb-nl-april-adachi
*4 https://edpb.europa.eu/system/files/2021-07/eppb_guidelines_202007_controller
processor_final_en.pdf
本連載執筆担当:ウイリス・タワーズワトソン Cyber Security Advisor, Corporate Risk and Broking 足立 照嘉
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスクの他の記事
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方