2018/05/08
防災・危機管理ニュース

政府は8日、災害救助法の改正案を閣議決定した。同日中にも国会に提出し、開催中の今通常国会での成立を図る。政令指定都市が仮設住宅など費用を負担し被災者救助の実行主体となる代わりに、都道府県から権限を移譲され国と直接協議もできるようにする。成立すれば2019年4月1日付で施行される。
改正案では政令市の中から「救助実施市」を指定。指定を希望する政令市に、仮設住宅整備や被災者への生活必需品の給与といった被災者への対応について、費用を政令市が負担し実行する代わりに都道府県から権限移譲を受ける。指定された政令市は救助費用の財源となる災害救助基金を積み立てておかねばならない。
法案では救助実施市は防災体制や財政状況が整っていることが必要となることを明記。この基準は内閣府令で定められることから、内閣府では法案成立後、基準作りのための検討会を設置し、具体化する計画。現在は宮城県と仙台市、愛知県と名古屋市、兵庫県と神戸市のほか、仮設住宅を供給する業界団体も交えた協議の場を設置しているが、これらも基準作りの検討会に吸収する方針。
また救助実施市に指定されるためには防災体制の基準を満たすことや、法案に内閣総理大臣が対象市の都道府県知事の意見を聴かねばならないとの規定があることから、事実上対象市と都道府県の同意が必要となる。法案ではさらに市区町村相互の連絡調整のほか、資源配分機能といった都道府県の広域調整権も明記する。
2011年の東日本大震災では宮城県と仙台市が仮設住宅の整備の遅れについてお互い責任を追及。2016年の熊本地震でも災害救助の役割分担などで熊本県と熊本市が対立するなど、近年は都道府県と政令市の考えにずれがあり、政令市側から権限移譲を求める声が強まっていた。内閣府ではこの問題の検討会を2016年12月に開設。その結果もふまえ権限移譲を認める方針を示していた。
小此木八郎・防災担当大臣は8日の閣議後の記者会見で、「東日本大震災と熊本地震の教訓から法案を提出することになった」と説明。4月17日に全国知事会議が反対を表明するなど都道府県の対応については「対象市を抱える都道府県は、指定市以外のエリアで責任を持って役割を果たすことで、(業務の)重なりを解消できる。指定についても政令市と都道府県でしっかり話し合われたうえで行う」と説明した。
■関連記事「知事会、政令市への権限移譲改めて反対」
http://www.risktaisaku.com/articles/-/5813
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方