2021/09/06
オピニオン

ブラックアウトの危機を乗り越えた企業
2018年の北海道胆振東部地震から3年が経つ。道内ほぼ全域の295万戸が最長2日間にわたって停電する大規模な全域停電(ブラックアウト)が起きた。その際、見事な対応で注目を集めた企業が北海道内に1100店舗のコンビニエンスストア「セイコーマート」を展開するセコマだった。
地震発生後、セコマは、災害対応マニュアルに基づき、本部社員や店舗スタッフが車から非常電源を確保し、停電中も店舗を営業し続けた。店舗厨房のガス釜を使った「塩おにぎり」の炊き出し販売を行い、「停電中に温かい食事ができた」など感謝され、SNSなどで「神対応」と評価された。
非常電源は、オーナーなどの車から給電して店内レジを稼働させ、停電後も道内95%の店舗が営業し続けた。非常電源セットは、車載シガーソケットの電源(DC12V)を家庭用コンセント(AC100V)に変換するコンバーター、延長コード、手元を照らすLEDライトの3点で構成されている。2011年の東日本大震災をきっかけに全1100店舗に備蓄していたという。
内閣官房国土強靱化推進室が同年12月4日、札幌市で開いたシンポジウム「企業における事業継続~巨大災害時代における企業の備えと防災人材の育成~」で丸谷智保社長は「災害時に必要な消費電力を絞り込んでいたことで、少ない電源でも継続できた」と振り返った。
https://www.risktaisaku.com/articles/-/13500
一方で物流倉庫は壊滅的被害を受けた。各地の倉庫では在庫品が散乱し、大量の商品廃棄が出た。1日かけて出荷可能な状態に整理した。災害時に需要が急増する水とカップラーメンは、丸谷社長自ら飲料水や即席麺のメーカー担当者に携帯電話やSNSで直接連絡をとって調達を依頼。同社茨城県の物流センターまで配送してもらい、フェリーに積み替えて40フィートコンテナ19基分を道内に輸送した。2016年に完成した釧路配送センターでは、施設とトラック40台が3週間可動できる大量の軽油・重油を備蓄していたため、これを札幌配送センターに分配し、トラック輸送用の燃料を賄った。これにより災害協定を締結した8自治体や自衛隊、北海道警察、北海道電力への物資供給を含め、通常の1.6倍の物量を供給し続け、32日半かけて通常業務に復旧できた。
丸谷智保社長は、同社の緊急対応計画が奏功したことについて「わかりやすい装備とマニュアルづくりもあるが、それ以上に店舗スタッフが業務を通じて地域コミュニティに対して愛着と使命感を育んで自主的に動いてくれていたことが大きかった」とスタッフの対応を讃えた。
印刷を続けた地元紙
道内に約100万部の日刊紙を発行する北海道新聞社は、全停電の中、震災後も紙面発行を継続し続けた。約2日間続いた大規模停電の対応に追われるなか、東日本大震災をきっかけに本社・支社では自家発電機を備えていたことが奏功し、中核となる紙面制作システムやサーバーは正常稼働できた。
一方、印刷工場が道内6拠点のうち5拠点が停止。そのなかで唯一2013年に自家発電装置を導入していた本社工場が「命綱」となり、同工場で6日午後から7日未明にかけて、自社媒体と災害協定などを結んだ他社媒体あわせて12紙・約200万部を印刷した。印刷工程でも、紙面数を大幅削減する、記事の締切時刻を最大で6時間早める、物流の中継拠点をつくりトラック輸送を効率化するなど工夫をすることで、発災による休刊を食い止めることができた。
このほか、道内38カ所の全支局にエンジン式の自家発電機を配置していたが、北海道新聞社編集局次長兼報道センター長の三浦辰治氏は「年1回の試運転が不十分だったため、ほとんど起動しなかった」と、内閣官房国土強靱化推進室のセミナーで振り返っている。かろうじて始動した数台も「屋外は騒音で近所迷惑、室内は有害排気ガスが出る」と結局稼働できず、「ほとんど役に立たなかった」という。
オピニオンの他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方