Highrise Apartment Fire/13 dead in Vietnum(出典:Youtube)

2018年3月23日(金曜日)の午前1時30分頃、ベトナムのホーチミン市8区にある20階建て700世帯が入居するマンション「カリーナプラザ・ビル(Carina Plaza Building)」で火災が発生。出火から3時間経った午前4時に消し止められた。


Highrise Apartment Fire/13 dead in Vietnum(出典:Youtube)

現地の新聞社「Tuoi Tre」によると、「 約1000人は、煙の匂いや部屋のベランダから助けを求める声、携帯電話の鳴り響く音などで目を覚まし、無事に逃げ出したが、下層階(4階以下)に住む少なくとも13人(全員女性)が一酸化炭素中毒で死亡。28人が避難時にパニックなどで重軽傷を負い、そのほか数百人が、現地消防警察局のレスキュー隊員により救助された」と報じている。

避難した住人の1人、Nguyen Ngoc Maiさんは以下のように証言している。

「路上まで避難できたマンションの住民のほとんどが、火災警報器などの音は聞かなかったし、火災信号灯も点滅していなかった。また、火災の発生階を確認しようとバルコニーから下階を見下ろしたが、何も見えないほどの大量の黒煙が上がってくるばかりで、さらに鼻を突くような煙たさに涙目になり、咳き込んだため、慌てて開口部を閉めた。

隣人たちもどうやって、自分や家族、子どもたちの身を守っていいのか良いかわからず、それぞれが、煙の少ない方向へ逃げはじめた。やがて、ホーチミン市消防警察隊のはしご車が、ベランダから救助を開始したと聞いて、そこに居た人たちが、その部屋へ一斉に駆け込んだ。

少しすると、その部屋もはしご車で助けてもらいたい人で入りきれない状態になったため、さらに煙の少ない部屋に移動して、懐中電灯で、消防警察のレスキュー隊に助けを求めた。

しかし煙が立ち上ってきて、息苦しい状態になり、しばらく待ってもなかなか助けに来ないため、携帯電話で消防指令センターへ電話し、避難している部屋の番号を伝えた。早く助けに来るように伝えると同時に手分けして、ドアから煙が入ってこないよう、あるだけのボディータオルや衣類などを濡らして、ドアの隙間に敷き詰めた。

そうこうしているうちに熱気も激しくなってきたため、バスタオルやシーツなど、大きめの布を濡らして自分たちの体に巻きつけて冷やし、開口部をすべて完全に締めて、濃煙や熱気から自分たちを隔離し、守った。

私たち住民は7年前から何度も、ホーチミン市消防警察局に消防設備の点検はもちろん、消火器の使い方や消防設備の使い方、避難訓練などの指導をお願いしていたが、一度も要求に応えてくれなかった」。

ホーチミン市は、古くはサイゴンの名で親しまれ、「東洋のパリ」と呼ばれる東南アジアでも屈指の観光地だ。そこで発生したマンション火災に出動した消防職員(消防警察官)は200人以上。はしご車やポンプ車、消防車など、計34台が出動し、現場到着から鎮火までに1時間強を要するなど、ここ15年でホーチミン市における最悪の火事となった。

火災原因は調査中だが、現地メディアによると、「マンションの地下駐車場に停めてあったバイク約1000台と車数台のうち、1台のバイクの電気系統から出火し、燃料タンクのガソリンに燃え移って次々に複数のバイクに延焼し、爆発燃焼が発生した。やがて駐車場に充満した濃煙が、屋内階段や非常階段を伝って、立ち上っていった。下階によっては、閉まっているはずの防火戸が開いていたため、逃げ遅れた住民が一酸化炭素中毒になったり、ベランダから子どもを抱いたまま飛び降りるなどして大勢の死傷者が出た」と伝えている。

ホーチミン市広報担当者は、「2009年の建築完成時から、消防設備の点検を毎年4回行ってきたとホーチミン市消防警察局から聞いていた。しかし避難してきた住民の話によると消防設備が作動していなかったため、住民自らが消防設備の警報装置の代わりに大声を出したり、まだ避難してない部屋のドアを強く叩いて、中で寝ている住民に早く避難するように伝えたと聞いた」と記者会見でインタビューに答えている。

市当局がホーチミン市消防警察局に消防設備点検の年間回数について事実確認したところ、「前の局長が在任中は、4回行っていたが、住民から消防設備点検作業中、生活やビジネスに影響するという、少数だが苦情があったため、現在の局長から、年に1回しか行っていなかった」と話しているという。

ホーチミン市消防警察局副局長のNguyen Thanh Huong氏によると、火災原因調査班の調べでは、一部のエリアの消防設備は虫や湿度などによる誤作動が多く、自動火災報知器が火災でもないのに鳴動するなどうるさかったために、迷惑に思った住民が消防設備の電源を切っていたことなども判明した。

最後にホーチミン市長のNguyen Thanh Phong氏は「今回の火災による死傷者や避難した住民の方々に強く責任を感じている」と謝罪している。

実は2002年にもホーチミン市内のトレードセンターで60人の命が失われた大火災が発生しており、当時から、ベトナムの消防法の改正とホーチミン市消防警察局の消防設備査察や点検制度の改善が書類上では行われていたが、実際は、行われていなかったことが明るみに出た。

■ベトナムの消防法
https://phuyen.eregulations.org/media/ND%2079%20CP%20hd%20luat%20PCCC%202014%20E.pdf

海外赴任先の宿泊部屋で火災による煙を覚知したら

1、浴室のフェイスタオルを濡らして、部屋のドアノブに被せてみる。
2、もし、フェイスタオルから湯気が出るようであれば、避難できないほどの熱気が部屋の外側まで来ているので、煙の対流を作らないようにエアコンを消す。エアコンの室外機から煙が入ってくることもある。
3、部屋の開口部の全部の隙間を水が滴るくらい濡らしたバスタオルやシーツを敷き詰めて、有毒ガスなどが入ってこないようする。
4、フロントや現地旅行会社や大使館などに状況を伝えて、いつでも簡単に避難できるよう、パスポートや免許証など、自分の身元を証明するものと貴重品、外でも通信連絡できるようノートパソコンなど、避難の支障にならないよう最低限を携帯する準備をして助けを待つ。
5、煙の匂いはするが、部屋のドアノブが冷たい場合は、濡れたタオルを鼻と口に当てて煙を吸わないようにし、身を低くして、ドアの後ろから身を守る姿勢で、ゆっくりと開ける。
6、廊下の煙の対流状況を見て、まずは、部屋から一番近くの避難階段の煙の充満を確認し、煙がなく、逃げられる状態であれば慌てずに普通に呼吸できる階まで逃げる。
7、通常、火災階の2階下まで避難できれば助かる事が多いため、最下階まで急いで逃げる必要は無い。
8、部屋から一番近くの避難階段に煙が充満しているようであれば、できるだけ遠くの避難階段や屋外階段から避難する。
9、避難する人たちはパニック状態のため、階段で突き落とされないように注意する。
10、もし、煙を覚知した場合は、同じ階の人たちに「ファイアー」など大声で叫び、同僚などが居れば、その部屋を叩いて、早急に避難するように伝える。
11、避難後は、ホテルのフロント、大使館、旅行会社、消防、警察などの関係者に避難したことを伝える。

この火災から学び、備えること

昨年、インド5都市、ラオス2都市の邦人企業、計12社の長期プロジェクトの安全調査を行った。長期滞在する方のほとんどは安心と思われる4スターレベルのホテル住まいではあるが、消防設備点検事情や点検したことの証明内容の真偽等の実情を知ることで、安心という心の感情と物理的な安全は違うということをハッキリと感じた。

実際に4スターレベルのホテル十数カ所の警備体制を始め、防火・防犯設備の点検、衛生管理について調査した。もちろんすべてではないが、煙探知器や熱感知器など、設備によって、見かけは作動しているように見えるが実は作動していなかったり、外観からではあるが、設備のさびの状態や数年前に失効している点検表の日付などが多く見受けられたりした。

また、屋内消火栓ボックスがゴミ箱状態になっていて、そのゴミをエサにするネズミの巣になっていたところもあった。

これらの現状を目の当たりに見て、これから海外に出張される方は、日本国内で販売されている「電池作動の煙式住宅火災警報器(約4000円程度)」を、できれば海外出張や赴任先へ2つ持参し、宿泊する部屋の入り口ドア近くの壁と寝室の2カ所に設置されることを強くおすすめしたい。もし、3スター以下のホテルに泊まる場合は、なおさら必要性は高いと思う。

電池作動の煙式住宅火災警報器は、国産メーカーでも安く、設置場所については下記のように書かれている。

「天井面に取り付ける場合は、入り口ドアの天井の壁から60cm以上離した中央付近、エアコンがある場合は、風の吹き出し口から、警報器の中心まで、1.5m以上離すこと。壁につける場合は、天井から警報器の中心が15〜50cm以内」

■住宅用火災警報器Q&A(総務省消防庁)
http://www.fdma.go.jp/html/life/yobou_contents/qa/

できれば、避難する際に視界・呼吸・頭部を守り、煙や有毒ガスを吸わずに安全に避難できるよう、下記のスモークブロックのフルフェイスタイプなどを装着すれば、海外赴任先での火災発生時、自ら命を守れると思う。

■スモークブロックのフルフェイスタイプ
http://www.rescueplus.jp/product_leaf.php?pid=b01

■スモークブロックの参考資料
http://irescue.jp/PDF/Smoke_Block.pdf

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
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