今回報告する報告書「Modelling the impact of spending on defence maintenance on flood losses」は、JBA Risk Management という調査会社(注1)が、Flood Re という再保険会社(注2)と英国保険協会(注3)のために、2021年5月に作成したものである。
ちなみに Flood Re は英国の政府と損保会社が共同で運営している再保険会社で、洪水に関するリスクの一部をFlood Reが引き受けることで、洪水をカバーする家庭向け損害保険をより安価で提供できるようにする仕組みのようである。
本報告書は下記URLから無償でダウンロードできる。
https://www.jbarisk.com/news-blogs/jba-modelling-for-joint-abi-and-flood-re-report/
(PDF 21ページ/約 1.7MB)
本報告書はタイトルに示されている通り、洪水による損失と、堤防などの洪水対策にかける費用を一定の条件のもとに試算して、洪水対策の有効性を検討したものである。
なお、本報告書において検討対象となっている洪水対策は防水壁と堤防に限定されており、他の方法による対策(例えば可搬型の止水バリアや排水ポンプなど)は検討対象に含まれていない。また検討対象は英国政府が管理しているものに限定されている。これは試算に必要なデータが得られないことが理由のようである。また沿岸洪水も検討対象外となっている。
このような限定条件はあるものの、本報告書は洪水リスクと洪水対策の有効性を定量的に評価している例として非常に興味深いものである。本稿ではこの報告書の中から、洪水リスクを定量化した例として筆者が特に注目した3つの図を紹介する。
図1は損害保険でカバーされている資産の分布を表したものである。ここで「資産」には、建物や財物などのほか、事業中断損失も含まれており、報告書の中では「Total Insured Value」(総保険価額)(TIV)と表現されている。図中の数字は英国全体の総保険価額のうち、その地域が占める割合を表したもので、英国の総保険価額の36%がロンドン周辺(注4)に集中していることを示している。
これに対して図2は、洪水による損失額の年平均(Average Annual Loss)(平均年間損失)(略称:AAL)の分布である。これは今後1万年間に発生すると考えられる洪水による損失額の合計を、シミュレーションで算出したデータに基づいているとのことである。これによるとロンドン周辺におけるAALは1億1700万ポンド(約159億円)となり、英国全体のAALの30%を占めるという。
一般的に都市部など、建物などの資産が集中していたりビジネスが活発な地域の方が、災害が発生した場合の損失額は大きくなるので、TIV、AALともにロンドン周辺で高い値となっているのは当然であろう。しかしながら図1と図2とを比較すると、必ずしも両者で色の濃淡が一致しているわけではない。
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