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日本とは異なり、ワクチン接種が進むアメリカでは、余儀なくされたリモートワークから職場復帰に向けて動き出している。日本に比べてIT環境が整い、職務記述書も整備されて個々人の仕事が明確に定義されていることから、リモートワークへの適応が相対的にスムーズであったと考えられるが、それでも、オフィスで一緒に仕事することが必須であることは同じである。従業員の職場復帰に向けて経営課題を洗い出している。

職場復帰に伴うリスクの一つして、リモートワークを経験したことにより、従業員が働き方に対して考え方を変えているかもしれないことを無視して、全員一律にオフィスワークに復帰させることが考えられる。もちろん、自宅勤務で大きなストレスを感じて、一日も早くオフィスで仕事したいと考える人もいるが、逆に新しい働き方に馴染み、むしろ自宅勤務のほうが柔軟な時間配分によって生産効率も良いと考え始めた人もいるであろう。一律な対応によって、リモートワークに適した人材をオフィスワークに戻し、オフィスワークに適した者をリモートワークに残すことで優秀な人材を失うこと、または全体的な生産性を低下させてしまうといったリスクを回避することが課題となる。より積極的に、この経験を前向きに捉えて従業員のモチベーションと生産性を向上させる仕事変革の機会であると考えることもできる。つまりコロナ・リスクを機会へと転化しようというわけである。

リモートワーク経験者は「追い込まれている」が最多

さまざまな産業、年齢構成、勤続年数にわたる1200人を対象としたマーテック・グループ(Martec Group)の調査によると、リモートワークを経験した従業員はその対応に応じて、4つの類型に分類できるという。つまり、リモートワークに対して「上手く適応している」、また「希望を持っている」人、逆にリモートワークによって「やる気を失った」、そして「追い込まれている」人である。「上手く適応している」従業員は16%と最も少なく、逆に最も多いのは「追い込まれている」者で、32%であった。やはり、多くの人は新しい働き方に戸惑っていて、これに対応できている人は少数であることが理解できる。

とは言え、これだけ多様な反応であることも無視できない。この調査結果を検討すると、従業員の反応は担当する仕事の性質と、家庭と仕事のバランスつまりワークライフバランスの必要性の度合いとによって、異なってくるようである。仕事が比較的自分一人で終結できる「内向き」なものなのか、それとも他の人との関係を必要とする「外向き」なものなのかによって、リモートで仕事がストレスなくできるかどうかが決まってくる。また、家庭の状況に応じて、例えば子供の教育に手がかかるなどの家庭でのニーズ、趣味などの仕事以外の時間を大切したいとのニーズが大きく、効率的にそして柔軟に仕事と自分の時間を調整したいとのニーズによっても異なってくる。こうした状況に応じて、リモートワーク体験への反応に多様性が生まれている。当たり前のことであるが、仕事と家庭の両方の要因が従業員の反応に多様性を引き起こす主要因なのである。そうであれば、こうした状況を把握するのは客観的にも可能であると思われることから、経営としては少なくともこれらの要因を把握することを怠ってはならないとの注意喚起であると考えるべきであろう。

面白いことに、この反応はこうした客観的な状況だけでなく、もちろんその他の要因も効いている。女性や若い人ほど新しい環境に適合している割合が高い、したがって、男性や高齢者ほど適応していないことも明らかになっている。さらには、中間管理者も、部下や上司、同僚との関係が必須であるという仕事の性質上、適応が遅れていることも示されている。旧来の仕事に慣れた程度が高いほど、新しい状況に戸惑いを感じている姿が見て取れる。コロナ後の仕事の在り方がかつての常態に戻ることではないこと、いわゆる新常態への移行であることを考慮すると、この点にも配慮が求められる。