出所:Horizon Scan Report 2018

BCM の専門家や実務者による非営利団体 BCI(注1)は、英国規格協会(BSI)と共同で、2月に「Horizon Scan Report 2018」を公開した。

Horizon Scanとは、中長期的に将来起こりえる変化や事象を、系統的な調査によって探し出そうとする手法である(注2)。BCI では 2011年から、主に BCI 会員を対象として「Horizon Scan Survey」というアンケート調査を毎年実施しており、今回発表された 2018年版は7回目の報告書ということになる(注3)。

表1は、今後懸念される脅威として挙げられたものの上位5位までを、2016年版から2018年版まで並べたものである。以前に2017年版の記事でも触れたとおり、上位3位の顔ぶれは2013年版から変わっていない。4~5位が若干入れ替わっているが、4~6位あたりまでは毎回2~3%程度の間に僅差で並んでいるので、実質的にはほとんど変化していないと言える。

表1: 直近3回の調査における、今後懸念される脅威の上位5位(出所:BCI Horizon Scan Report 2018)

なお、動きが目立つものとして本報告書で言及されているのは、「火災」が前回の13位(9%)から8位(14%)に上がったことであり、これは2017年にロンドンで発生したGrenfell Towerでの大規模火災の影響ではないかと見られている。

巻末の Annex には、データの集計結果が地域別や業種別に分けて掲載されている。「サイバー攻撃」はどの地域・業種でも漏れなく 1 位となっているが、カナダ、オーストラリアおよびその周辺、およびサハラ以南のアフリカでは2位が「計画外の IT および通信の途絶」となっている。また「異常気象」がインドでは 2位、アジアでは3位に入っている。製造業においては、2位が「サプライチェーンの途絶」、3位が「製品品質に関する事故」となっており、他の業種との違いが際立っている。

また本報告書では、BCM に対する投資の傾向を調査した結果も掲載されている。その結果は図 1 のようになっているが、回答者の 25% は「プログラムの拡大または新たな要求を満たすために投資を増やす」と回答している一方で、11% はプログラムの対象範囲(scope)を限定するなどで投資を縮小すると回答している。52% は現状維持と回答している。

図1:設問「もし事業継続プログラムが運用されている場合、今年と比べて2018 年の投資はどのようになりますか?」に対する回答状況(出所:BCI Horizon Scan Report 2018)

こちらのデータも地域別や業種別に集計されている。地域別で見ると、投資を増やす傾向が目立つのはアジア(39%)と中東および北アフリカ(38%)である。2017年11月にロンドンで開催された BCI の年次カンファレンスで、BCI 本部の方から聞いたところによると、最近は中国と中東で BCI の会員が大幅に増えているとの事であり、この傾向は上のデータと符合する。業種別では「金融および保険」(29%)、「IT および通信」(30%)、「ヘルスケアおよび公的介護」(31%)、「製造業」(29%)において、投資を増やすという回答が比較的高い。一方で投資を縮小するという回答が最も多かったのは「行政および防衛」(25%)である。

2017 年版を紹介した記事(注3)でも述べたとおり、BCI による一連の調査では回答者の半数程度が欧州からであるため、調査結果もそのような偏りがあることを踏まえて読む必要がある。しかしながら、たとえそのような偏りがあるとしても、我々が今後備えるべき脅威について、様々な示唆を与えてくれる報告書である。

■ 報告書本文の入手先(PDF36ページ/約1.1MB)
https://www.thebci.org/resource/horizon-scan-report-2018.html

注1)BCIとは The Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、英国を本拠地として、世界100カ国以上に8000名以上の会員を擁する。http://www.thebci.org/

注2)Horizon Scan について、BSIは危機管理に関する「PAS200」という公開仕様書で「新たなリスクを創出したり、既知のリスクの特性を変化させる可能性のある、潜在的な脅威、機会、および将来の変化に対する、系統的な調査」と定義している(和訳は筆者)。もともとはヨーロッパの医学界や食品安全等の分野で用いられ、近年では政府や企業にも採用されつつある手法のようである。

注3)本連載では2017年2月27日に2017年版を紹介させていただいた(http://www.risktaisaku.com/articles/-/2435)。また、かつて紙媒体の『リスク対策.com』2014年9月発行vol.45で、2014年4月に公開された 2014 年版を紹介させていただいた。

(了)