2016/08/21
待ったなし!サイバー攻撃対応の手法
五輪期間中のサイバーセキュリティを担う公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のテクノロジーサービス局は、2016年にオリンピックが開催されるリオデジャネイロを訪れ同組織委員会から現状の取り組みなどについて説明を受けた。昨年はロンドンを訪れ、2012年ロンドン五輪に携わったイギリス政府や通信事業者の担当者からも経験を聞いた。海外から学べる点は何か、日本はどう備えていくべきか。テクノロジーサービス局長の舘氏に聞いた。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年7月25日号(Vol.50)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。役職などは当時のままです。(2016年8月24日)
Q.リオデジャネイロの準備状況を見て、どのような感想をお持ちになまりしたか?
A.世間一般的に、競技会場などの準備が遅れているのではないかと言われていますが、システムやネットワークに関しては、正直安心感を得ました。オリンピックで使われるシステムというのは、毎回、トップスポンサーであるATOS(フランスに本社を持つデジタルサービス企業)が専門部隊を送り込んで準備しているのですが、歴史もありますし、方法論としては既にある程度確立しているわけです。毎回まったく新しいことをするわけではないので、基本設計もそれほど変わりません。この点はとても安定していると言えます。
もし、問題があるとすれば、それは運用体制であったり、あるいは大会を支える社会インフラだろうと思います。その辺は、細かな説明があったわけでなないですが、運用者の意識や社会インフラ側の対策などについては国や文化によってかなり事情が違うと想像します。一概に良し悪しは評価できませんが、それぞれの事情に応じた検討や対策が必要だと思います。
Q.訓練に関してはいかがでしょう?
A.リオデジャネイロでも、これから本格的なテストイベントが始まると聞いています。実際にシステムを使って検証するイベントもあれば、システムは使わずシャドウイングと呼ばれる方法でシミュレーションするなど、さまざまなやり方がありますので、対象範囲や方法については今後も情報交換をして参考にさせていただければと考えています。
Q.ロンドン五輪について情報交換された印象はいかがでしたか?
A.ロンドンも昨年、機会があり、政府関係者などへヒアリングをさせていただきました。その際に個人的には、サイバーセキュリティのレガシー(遺産)として、何が最終的に残ったのか興味がありました。イギリスのIT産業としてグローバルに名を聞く企業は限られていますので、とくに興味があったのです。その答えは、基幹産業である金融や国の行政機関などで、オリンピックを機会にセキュリティの運用レベルがさらに一段ランクアップしたということでした。また、セキュリティに携わる人材もIT増えたし、大学のプログラムなども充実したそうです。こうした効果はオリンピックのもたらしたレガシーと言えるのではないでしょうか。
Q.日本はどう備えるべきと考えていらっしゃいますか?
A.皆さんから「2020年のサイバーセキュリティ対策は大変ですね」と言われることが多くなってきましたが、もちろんオリンピックに関するシステムそのものの対策は大変ですが、仮にテロリストや犯罪者が狙ってくるとすれば、それはむしろ対策が手薄な弱い部分です。オリンピック施設以外の社会インフラであるとか、行政機関、スポンサー企業、金融機関のサイトなども対策をしっかり打っておくことが大切です。知恵さえあればオリンピック期間中にどこかでパニックを引き起こす方法はいくらでも考え付くわけです。何を言いたいかというと、組織委員会やパートナー企業だけが頑張っても限界があり、日本の社会を支える企業や業界団体も一緒になって取り組む必要があると思うのです。
特にIoT(インターネット・オブシ・ングス)と言われるように、あらゆるものがネットワークにつながる時代ですから、想定すべきリスクの範囲は確実に広がっています。
待ったなし!サイバー攻撃対応の手法の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/12/24
-
-
-
能登の二重被災が語る日本の災害脆弱性
2024 年、能登半島は二つの大きな災害に見舞われました。この多重被災から見えてくる脆弱性は、国全体の問題が能登という地域で集約的に顕在化したもの。能登の姿は明日の日本の姿にほかなりません。近い将来必ず起きる大規模災害への教訓として、能登で何が起きたのかを、金沢大学准教授の青木賢人氏に聞きました。
2024/12/22
-
製品供給は継続もたった1つの部品が再開を左右危機に備えたリソースの見直し
2022年3月、素材メーカーのADEKAの福島・相馬工場が震度6強の福島県沖地震で製品の生産が停止した。2009年からBCMに取り組んできた同工場にとって、東日本大震災以来の被害。復旧までの期間を左右したのは、たった1つの部品だ。BCPによる備えで製品の供給は滞りなく続けられたが、新たな課題も明らかになった。
2024/12/20
-
企業には社会的不正を発生させる素地がある
2024年も残すところわずか10日。産業界に最大の衝撃を与えたのはトヨタの認証不正だろう。グループ会社のダイハツや日野自動車での不正発覚に続き、後を追うかたちとなった。明治大学商学部専任講師の會澤綾子氏によれば企業不正には3つの特徴があり、その一つである社会的不正が注目されているという。會澤氏に、なぜ企業不正は止まないのかを聞いた。
2024/12/20
-
-
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方