2021/04/14
寄稿

本稿では下記の考察を通じて、グローバルに事業展開する企業の方々に治安リスクの理解を深めていただきたいと思います。
- 1. ミャンマーで発生したクーデターとその後の大規模デモにより現地に進出している日本企業にどんな損害が発生する可能性があるのか?
- 2. また、その損害は保険で補てんできるのか?
- 3. さらには、ミャンマーで発生している事象が他の地域でも起こり得るのか?
ミャンマーで悪化する治安リスク
2021年2月に発生したクーデターおよびその後の大規模デモと警察・軍部との衝突により、ミャンマーの治安リスクは極めて危険な状況になっています。
日本政府からも、在留邦人に対して帰国を促す注意喚起が発せらました。このような状況でミャンマーに進出している日本企業はどのような対応を迫られているでしょうか?
ミャンマーに進出している日本企業は400社以上ありますが、多くの企業で工場の操業停止や業務の制限が行われています。以下は報道されている一例ですが、氷山の一角であり、実態はかなりの数の企業が同様の対応を迫られているものと推察できます。
デンソー:自動車部品工場の操業停止、従業員は自宅待機
スズキ:従業員の安全を最優先し工場の稼働を見送り
キリン:ヤンゴン郊外の工場を停止、工場の建設責任者に帰国指示
JFEエンジニアリング:再稼働していた橋梁(きょうりょう)工場を停止
現地ではデモに参加していなくとも、デモが行われる地域を歩いているだけで警察に捕まる可能性があるため、通勤経路にデモの予定地がある場合には通勤を自粛する従業員が多いとのこと。そのため、企業としては従業員が確保できず操業できないケースも発生しているようです。デモと警察との衝突による死者は日に日に増大しており、現地の状況は悪化の一途をたどっています。
直近では、ファーストリテイリングの協力工場の2カ所で火災が発生し、GUの商品供給に支障を来しているとの報道もあります。
本稿執筆時点では、幸いにもデモと警察・軍部の衝突に巻き込まれて直接の被害を被った日本企業はありませんが、もしそういった事態が発生したらどのような損害が発生するでしょうか?
ミャンマーに限らず海外拠点を有している多くの日本企業では、従業員の身の安全を図るための措置は事前に準備されているようです。例えば有事の際の避難マニュアルを策定しているとか、緊急避難の手配のために専門の業者と契約しているとか、さまざまな対応を取られていること思います。
しかしながら、治安リスクによる物的損害や事業損失についても、しっかり検討されている企業は少数派ではないでしょうか?
寄稿の他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方