新規制基準の高いハードル

今年7月に施行された原子力発電所の新しい安全基準「新規制基準」では、地震対策に加え、新たに重大事故(シビアアクシデント)対策、自然災害、テロ対策などが加わり、これらの基準をクリアできない限り、原子力発電所の再稼働は認められないことになっている。これまでのところ、7月時点で北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力が6原発10基について申請し、東京電力は9月27日に柏崎刈羽原子力発電所6・7号機について申請書を提出した。 

10月10日に開催された第31回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合では、安全審査中の東京電力を除く4社について、29項目に分類した審査の着手状況が発表されたが、必要な説明資料の提出に各社が手間取っていることから、審査が最も進む四国電力伊方3号機でも29項目中10項目に留まり、新基準のハードルの高さを改めて認識させる形となった。東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の審査については、福島第一原発の状況を見極めるとの判断から審査が遅れている。 

新基準では、地震対策として地下構造を最大40万年前まで調べて活断層がないか評価すること、津波対策については原発ごとに将来起こり得る最大の津波を想定し防潮堤のかさ上げや建物や設備、配管など浸水対策を強化すること、非常用電源の高台への移転を義務付けること、など大幅に対策が強化された。さらに、火山活動、竜巻、森林火災などの自然災害や、意図的な航空機テロ対策などへの備えも必要になった。自然災害以外でも発電所内の火災や内部溢水(いっすい)で原子炉施設の安全性が損なわれることがないよう対策の強化が求められている。 

各社の提出状況を見ると、津波対策については一定の進捗が見られるものの、重大事故対策や、保安規定(組織・体制、教育訓練など)については、かなり難航している状況が見てとれる。 

重大事故対策は、万が一、自然現象などにより原子炉の安全性機能が一斉に失われた場合でも、その進展を食い止める対策が要求されている。つまり、「未然に防ぐ」という従来の考え方ではなく、防げずに最悪な状況に陥った場合、いかに早く沈静化するか、炉心の冷却やベントなどによる格納容器の減圧、放射性物質の拡散防止策が求められる。 

航空機テロ対策については、5年間の猶予期間が設けられているが、既存の制御室が使えなくなることを想定し、代替施設として「特定重大事故等対処施設」を整備しなくてはならない。 審査には最短でも半年程度の期間がかかる見通しだが、仮に審査を通っても自治体の同意がなければ再稼働は難しい。ハード・ソフト両面の危機管理体制の強化とともに、地元住民や自治体を含めたステークホルダーに対する日常的なリスクコミュニケーションが不可欠となる。