レピュテーションを支える戦略部隊

東京電力の原子力安全改革で、もう一つ注目したいのがリスクコミュニケーション活動だ。福島原発事故では、住民をはじめ、政府、自治体、メディアなどに対して一貫性のある明確で分かりやすい説明ができず、信用力を失った。こうした反省から同社では、専門的な技術を、市民目線で分かりやすくステークホルダー(利害関係者)に伝えることができる専門職としてリスクコミュニケーターの育成に努めている。現在リスクコミュニケーターの数は32人。全員が技術系の管理職だ。技術を理解して、なおかつ高いリスクコミュニケーション能力を持っていることが条件になる。

リスクコミュニケーターは、日常的には本店はじめ、福島第一・第二原子力発電所、柏崎刈羽原子力発電所など各拠点の広報部を中心に配置されている。 

彼らの業務は大きく平時と緊急時に分けられる。平時においては地域住民はじめステークホルダーと広く対話する中で、情報開示が必要と思われるものや、正しく伝わっていないと感じられたものなどについては、経営層や原子力リーダーに対し改善を促す。また、社員一人ひとりが社会に対する説明責任を担っていると考え、社員に対して原子力の専門的な知識や技術を伝える役目も果たしている。地域住民や関連機関、メディアなどに対して専門的な技術を分かりやすく説明するというのも彼らの役割だ。 

一方、緊急時においては、緊急対策本部の広報班に入り、地域住民や関連機関、メディアなどとのコミュニケーション役を担う。「相手がどんな人で、何を知りたいか、どれくらいの知識を持っているかをしっかりつかんだ上で、相手が納得のいく説明をする」能力が求められる。 

そのため、リスクコミュニケーターには定期的にリスクコミュニケーション力を身に付けるための研修を受けさせている。それぞれのリスクコミュニケーターは、日々、直面した課題などをイントラネット上の掲示板などで共有し、全体でのレベルアップを図っているという。 

一般の広報部との違いは、技術面における知識が高いことに加え、経営層や原子力リーダーに助言できる権限が与えられている点だ。

戦略的なリスクコミュニケーションで信頼を守る 
リスクコミュニケーターの活動を司るのが社長直属の組織であるソーシャル・コミュニケーション室だ。福島原発事故後の改革の一環として新たに設置された。リスクコミュニケーターを除くと、わずか11人の部門だが、室長は現在社長が兼ねている。 

同室では、リスクコミュニケーターを通じて、業務の中に隠れているさまざまなリスク情報を収集し改善策を講じるとともに、経営層や原子力リーダーに対するリスクコミュニケーターの助言を確実に実行に移せるようサポートするなど社内改善活動の潤滑油としての役割を担っている。 

ソーシャルコミュニケーション室推進グループ兼原子力改革特別タスクフォース事務局の辻青子氏は、その役割を「防火と消火」に例える。防火とは、社内であらゆる火種を未然に防ぐリスクマネジメント的な活動と、会社全体の社会的感性を醸成し、ステークホルダーを常に意識しながら仕事をする環境を整備する取り組み。消火は、いざ事態が発生した時に一刻も早く沈静化させ、社会の不安・懸念を払拭することだ。この両面を戦略的に支援することで、会社の信用を守る。 

将来的には、社外から室長を迎えたいと考えている。これまで以上に社会的な視点を意識した社内の体質改善を進めていく方針だ。