(イメージ:写真AC)

今回は西安交通リバプール大学(西交利物浦大学)蘇州国際ビジネススクールのYu Han氏ほか2人が発表した論文を紹介する。論文のタイトルを和訳すると「サプライチェーン・レジリエンスの能力とパフォーマンス指標に関する系統的文献レビュー」というもので(注1)、「International Journal of Production Research」という雑誌(注2)に2019年1月に提出され、2020年6月に受理された後、7月2日にウェブサイトに全文が掲載されたものである。

系統的文献レビューとは、ある目的を持って、既存の文献(論文、書籍、未出版の報告書なども含む)を大量に収集し、これらを一定の方法に基づいて整理・分析するものである。本連載でもかつて組織のレジリエンスの概念や評価手法に関する系統的レビューの例を紹介したが(注3)、今回紹介するものはサプライチェーンのレジリエンスを対象とし、次の3つの問いに対する答えを見出すことを目的として、レビューが行われている。

Q1:一般に議論されている、サプライチェーン・レジリエンスを形成する能力は何か?
Q2:サプライチェーン・レジリエンスのパフォーマンス指標は何か?
Q3:サプライチェーン・レジリエンスは、どのような能力や評価の側面から、どのように測定され得るか?

著者はまずEmeraldやScience Directなどの主要な学術論文データベースなどから、2003年以降に発表された文献を対象として、サプライチェーン・レジリエンスの能力、評価、測定に関するキーワードを設定して検索を行い、722の文献を抽出した。次にタイトルや要約、結論の内容をもとに選別して対象を210に絞り込み、さらに内容全体を読み込んで153の文献をレビュー対象とした。ちなみに図1はレビュー対象となった文献が発表された時期をグラフにしたものであり、2011年から増加傾向であることが分かる。

写真を拡大 図1. レビュー対象の文献が発表された時期(出典:Y. Han et al. (2020) )

また図2は、サプライチェーン・レジリエンスの能力の評価に関する研究における重要な年を示したものである。著者によると、RiceとCaniatoが2003年に発表した論文(注4)が、サプライチェーン・レジリエンスの能力に関する最初の論文であるという。次にDattaほかが2007年にサプライチェーン・レジリエンスの定量評価に関する最初の論文を発表している(注5)。また2009年はサプライチェーン・レジリエンスに関する論文が増えただけでなく、能力の種類に関する研究が増加した年で、この年に発表されたPonomarovとHolcombによる論文(注6)では、サプライチェーン・レジリエンスの能力は「準備」(readiness)、「対応」(response)、「復旧」(recovery)の3つの側面で考えるべきであるというコンセプトが示された。2012年からは研究者の関心がパフォーマンス指標に向き始め、Hohensteinほかはサプライチェーン・レジリエンスのパフォーマンス指標に関する最初の系統的文献レビューを(注7)、またChowdhuryとQuaddusは2016年にサプライチェーン・レジリエスの能力の評価に関する論文を(注8)、それぞれ発表している。